はじめに
こんにちは、6Gテック部の谷崎です。 近年、AI技術の発展が目覚ましい中で、モバイルネットワークとAIの融合も急速に検討が進んでいます。 この記事では、モバイルネットワーク×AIに関する最新の業界動向について解説します。
標準化議論におけるAI/ML議論と取組
移動通信システムの仕様の規格策定を行う国際的な標準化団体である3GPP(3rd Generation Partnership Project)では、現在Rel-19の検討が行われていますが、Rel-18からAI/MLに関する検討が始まりました。 Rel-18では、AI/ML技術を無線インタフェースおよび無線アクセスネットワークに適用するための仕様策定が行われました。 具体的なユースケースとして、チャネル状態情報のフィードバック、ビーム制御、端末位置測位、モビリティ、ロードバランシング、ネットワーク消費電力の最適化が含まれます。
Rel-19では、これらの成果を元に、AI/ML技術の導入効果が見込めるユースケースの実現や新しいユースケースの検討が進められます。共通仕様として、AI/MLモデルの学習、データ収集、性能モニタリング、モデルのライフサイクルマネジメントに必要なシグナリングやプロトコルの策定が行われます。 具体的な対象として、ビームの空間・時間方向の予測、AI/MLモデルによる端末位置測位などが含まれ、これらへの仕様策定や性能要求、端末能力の定義も行われます。
また、AI/ML技術による無線アクセスネットワークの最適化に関しても、カバレッジとキャパシティの最適化、ネットワークスライシングの最適化、セル品質予測、ハンドオーバ失敗予測、デュアルコネクティビティ向けのモビリティ最適化、電力消費予測などの検討が行われます。
詳しくは ドコモテクニカルジャーナル VOL.32 NO.2 5G-Advanced標準化動向 もぜひご覧ください。
NTTドコモの取組
我々6Gテック部を含むドコモR&D部門は、上記の標準化の取り組みを1つの手段としながら、6Gに向けた新たなモバイルネットワークのあり方、価値について 日々検討しています。今回はその中で、6Gの価値についてご紹介します。
6Gの価値
3GPPのSA1#106会合寄書 S1-241030 Overall NTT DOCOMO’s view on 6G でも言及している、NTTドコモが思い描く6Gの価値を下記に示します(2024/09時点)
6Gの価値 | モチベーション | 検討領域 |
---|---|---|
Sustainability | ・2030年 カーボンニュートラル ・2040年 ネットゼロ |
光電融合技術の適用(IOWN APN) NW制御へのAI適用による低消費電力化 |
Efficiency | システム・運用のシンプル化によるコスト削減 | 全体設計を5Gよりもシンプル化 AI適用による自動運用化・設定の最適化 |
Customer Experience | ・新デバイス(例:ウェアラブル端末)へ価値を提供 ・モバイルネットワークは生活に欠かせない第4のインフラ |
・デバイスの不足な計算リソースをネットワークが提供 ・耐障害性の高いネットワークの構築 ・数cmレベルの高精度測位による空間コンピューティング |
Connectivity Everywhere | いつでも、どこでもつながるネットワーク | LEO/GEO/HAPSのベストミックスによるスマホ直接アクセス(DA)でのカバレッジ拡大 |
Network for AI | ・人間中心ユースケースからの進化 ・AI、ロボット、自動マシンを対象にした新規収益を創造 |
・AIの価値最大化のための計算資源提供と大量のデータ収集 ・高速大容量、低遅延性と信頼性の更なる向上 |
このように、NTTドコモはモバイルネットワークとAIの融合が、6Gにおける新たな価値の一つになると考えています。
NTTドコモとSamsung Electronicsによる6Gに向けたAI研究に関するMOU締結
6Gに向けたモバイルネットワーク×AIの研究開発の一環として、2024年8月、NTTドコモとSamsung Electronicsは、6Gに向けたAI研究に関する MOU(Memorandum Of Understanding:基本合意書)を締結しました。
Samsung Electronics and NTT DOCOMO Collaborate on AI Research in Mobile Communications
AI技術がさまざまな産業に広がり、6G通信の標準化が本格化する中、今回の協業は両社の豊富な技術力とビジネス知見を活用し、 通信分野におけるAI研究を加速させることを目指しています。
現在、通信品質の最適化は、基地局のセル単位で一般的に行われていますが、今後はAIの応用により、 ユーザーレベルの最適化を実現することを目指しています。 例えば、セル境界間や電波の弱いエリアに入るユーザーも、途切れることなく動画を視聴でき、より安定した通信サービスを受けられるようになります。
このように、両社の技術力を結集し、通信技術の発展に向けて協力を続けていきます。
AIとモバイルネットワークの今後
各企業の活発な取り組みにも見られるように、AIとモバイルネットワークの融合はより進んでいます。 NTTドコモは、6Gの研究開発にも注力しており、AIが6Gネットワークにおいても重要な役割を果たすと考えています。 今後も、NTTドコモが考える「AIとモバイルネットワーク」の展望や我々の取組について情報発信していきたいと思います。