当記事は3GPP SA1/SA2/SA5におけるEnergy efficiencyに関する取り組みを紹介する記事です。
はじめに
こんにちは!NTTドコモ 6Gテック部の黒岩と田村です。5G時代においてもサステナブルな取り組みが注目されています。ドコモは、温室効果ガス排出削減目標をサプライチェーン全体に拡大するという2040年ネットゼロをめざすなど、脱炭素社会の実現に向けてネットワーク消費電力を削減する技術の開発や設備の導入などに取り組んでいます。
ネットワーク省電力化でネットゼロへ貢献
ドコモでは、太陽光発電を利用したグリーン基地局や、太陽光発電所などで発電した再生可能エネルギーへの切り替えなど「再生可能エネルギーの導入」に関する取り組みを実施しております。詳しくはドコモのホームページのグリーン5Gにて紹介しています。6Gテック部は、さらに「ネットワーク省電力化」の実現に向けた取り組みも進めています。今回は、その「ネットワーク省電力化」に大きく関わるユースケースやシステムアーキテクチャの検討を行っている3GPP SA1/2というグループとネットワークの管理に関する検討を行っている3GPP SA5というグループでのネットゼロに資する取り組みであるエネルギー効率化 (Energy efficiency) における標準化動向とドコモの標準化提案をご紹介します*1。 3GPPではReleaseという単位で標準化を進めており、現在(2024年12月)はRelease 19とRelease 20の検討が進められています。
*1: 6Gテック部では、モバイルネットワークの標準化を行う3GPP(3rd Generation Partnership Project) 国際標準化の議論に積極的に参加しています。3GPPとは3G、LTE、LTE-Advanced、 5Gなどの移動通信システムの国際標準化を行ってきたプロジェクトです。現在は5G-Advancedや6Gの標準仕様を策定しています。 3GPP標準化活動について、詳しくはドコモのホームページの「3GPPの組織と活動内容」やこちらの仕事紹介記事をご確認ください。
Energy関連ユースケースやシステムアーキテクチャの紹介
モバイル通信におけるユースケースや要求条件を議論するSA1では、5G AdvancedにあたるRelease 19のTR22.882(Study on Energy Efficiency as service criteria)でEnergy efficiencyを考慮した通信サービスのユースケースと通信に必要な条件を検討しています。たとえば、電力計測の対象(例:ノード、セル単位の平均電力消費量)を決めたり、消費電力に基づいて通信の経路を変えたり(図1参照)と、色々なユースケースが提案されています。また、産業へのEnergy関連情報公開に関するユースケース検討が進められており、通信ごとのEnergy関連情報や、通信における再生可能エネルギーの使用割合を公開する提案もあります。
これらの検討をもとに、システムアーキテクチャを議論するSA2では、TR23.700-66(Study on Energy Efficiency and Energy Saving)で「情報公開」「契約サービスとポリシー管理」「Energy efficiencyのための5G機能拡張」について議論されています。
- 情報公開:エネルギー関連情報を収集・計算・公開するまでの機能を策定
- 契約サービスとポリシー管理:エネルギー関連情報が関わる契約情報の保存やポリシー情報の5Gシステム内での管理機能の策定
- Energy efficiencyのための5G機能拡張:エネルギー関連情報に基づくネットワーク機能の探索、および選択の機能強化や通信セッションの調整機能の策定
ドコモはすべての項目において積極的に提案し、結論の段階で提案事項を反映させることができました。具体的には、Energy efficiency用の新しいネットワーク機能においてエネルギー関連情報を計算したり、省電力なバックグランドデータ転送のためのポリシーを定義したり、エネルギー関連情報に基づいてネットワーク経路を調整する機能を提案し、反映しました。
Energy関連ネットワーク管理の仕組み
ネットワークの管理・課金システムを担当するSA5では、Release 18までにTS28.310 (Energy efficiency of 5G)という5G Advancedの仕様を策定しました。 このドキュメントではEnergy efficiencyの評価と最適化に関するコンセプト・要件・ソリューションが定義されています。 今回はその中でもエネルギーの節約 (Energy saving)のユースケースにフォーカスして内容をご紹介します。
モバイルネットワークはあるエリアにおいて通信容量を確保するため複数の基地局からの電波を受けるように設計されていることがあります。通信量の少ない夜間などではそのように基地局同士のエリアが重複している場合に省電力モードにするユースケースが仕様化されています(図2参照)。
また、スマートフォンなどの携帯電話機の通信データをインターネットに届けるためのネットワーク機能 (UPFと呼ばれます) の省電力化についても仕様化されています。UPFは低遅延な接続の要求がある際にネットワーク上の基地局に近い場所に配置されることがあります。そのような基地局に近いUPF (edge UPF) が配置してある場所についても夜間など時間帯によって低遅延な接続を必要とする携帯電話機がエリアにいない場合などにedge UPFに接続していた端末の通信をほかのUPF (central UPF) に移動させ、edge UPFを省電力な状態にするというユースケースが仕様化されています。
Release 19ではエネルギー量の測定方法や新たなEnergy efficiency・Energy savingのユースケースなどについて仕様化に向けた議論が進んでおり、ドコモはETSI NFV*2との連携による消費電力の取得に関する提案を実施しています。これらの仕様化を進め、導入されることで世界中のネットワークのさらなる省電力化が期待できます。
*2: 通信サービスにおけるネットワーク仮想化の実現を目的にETSI (欧州電気通信標準化機構) において設立された標準化グループ
最後に
このように3GPPでは、5G AdvancedにおいてもEnergy efficiencyに向けて仕様化に取り組んでおり、ドコモも引き続き積極的に貢献していきます。 6Gでは、Energy efficiencyの重要性が高まり、さらに新たな機能を検討しております。ドコモの考える6Gの意義について、詳しくは「ドコモ開発者ブログ」の「6Gの意義:ドコモが考える未来のネットワークとその価値」でご確認ください。
お読みいただき、ありがとうございました!