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3GPPの選挙はどれだけ大変?大激戦となった副議長選挙を振り返って

3GPP RAN1の副議長に当選しました

こんにちは!NTTドコモ 6Gテック部の原田です。

私はこの度、2025年10月14日にチェコ・プラハでの3GPP会合中に、RAN WG1(RAN1)の副議長に選出されました。

ちなみにこちらの記事でも3GPPの副議長に当選した話がありますが、今回のRAN1副議長と記事のTSG-CT副議長はポストが異なっています。

記事の中で紹介されているように、3GPPは第3世代以降の移動通信システムの国際標準仕様を策定している団体で、国際標準仕様を構成する様々な分野ごとに担当のワーキンググループ(WG)が存在しており、その中の一つが今回私が副議長に選出されたRAN1です。

今回のRAN1副議長選挙には、当選しました、の一言ではとても済まされないドラマがありましたので、全てを公開することはできませんが、いかに3GPPの選挙が大変か、について少しだけご紹介します。

3GPP RAN1の副議長とは

3GPP RAN1は、移動通信システムの国際標準仕様の中で、主に無線を使った信号のやり取り(無線インターフェース)に関する物理レイヤの仕様を担当するWGです。 端末や基地局装置などのハードウェアの実装にも大きく関わる仕様を扱い、また5Gや6Gなど新世代の無線アクセス方針を検討する際の議論の中心にもなっていることから、3GPPの中でも最も注目度が高く、最大の参加者数を持つWGです。 10月のプラハでのRAN1会合には、718名が現地参加していました。

そのRAN1での議論を取り仕切るのが、選挙で選ばれた1名の議長(Chair)と2名の副議長(Vice chair)です。 RAN1の議長と副議長は、年6回行われるRAN1会合それぞれでの議題(Agenda)や時間割の決定、各議論の取りまとめ役(Feature lead)の指名、会合中の議論の進行と合意事項の決定、上位の会議であるTSG(Technical Specification Group) RANプレナリ会合への四半期毎の報告、などを行います。 もちろん議長と副議長では役割や権限が異なり、議長が上記全ての最終的な決定を行う責任を持っているのですが、RAN1は規模も大きく多数の議論を扱うことから、議長から副議長2名への権限移譲を多く行っています。

具体的には、RANプレナリ会合にて合意された検討項目(Study item)や仕様化項目(Work item)を議長と副議長で分担し、担当となった項目について、上記の役割を議長と副議長それぞれが行います。 RAN1会合は月曜日から金曜日までの5日間で行われますが、月曜日の午前と金曜日の午後以外(図の灰色とオレンジ色で塗られた部分)は、副議長もそれぞれの会議室に分かれて、担当となった項目の議論を進行しますので、RAN1では副議長といえども議長と同じくらい重要な役割と責任を持っている、と言えます。

RAN1会合のスケジュールイメージ(白色部分が議長、灰色部分とオレンジ色部分が各副議長に割り当てられたセッション)

3GPPのリーダーシップ選挙

3GPPでは各TSGや各WGの議長、副議長を選挙によって選出しています。 各TSGには1名の議長と3名の副議長、各WGには1名の議長と2名の副議長のポストがあります。 議長や副議長の任期は2年で、2期までは連続して務めることができるため、何か事情がない限りは実質的な任期は4年間となりますので、各ポストについて4年に1度選挙が行われて新たな議長、副議長が選出されています。

選挙権を持つのは、3GPPに参加しているIM(Individual Membership)と呼ばれる会社や大学などの法人の単位で、個人ではありません。 また、各選挙で実際に投票する権利を得るためには、その選挙の対象となるTSGやWG会合に直近できちんと参加していることが必要となっており、詳細なルールはこちらに記載されています。

立候補までの道のり

ここで、私自身の経歴についても少しご紹介します。

私は2012年から3GPP RAN1に関する業務に関わり始めました。 本格的に関わったリリースとしてはリリース12からとなり、現在検討及び仕様化が行われているリリース20まで、継続してRAN1の議論に関わってきました。 最初の頃は寄書の発表をしたり質疑応答をしたりするのもたくさんの人の前ということもありとても緊張しながらで、自分が議長や副議長に立候補するなど全く想像もできませんでした。

しかしながら、RAN1の仕事で関わってきた自社や他社の多くの方から頂いた指導のおかげで、複数社の提案内容をまとめて合意事項を作るための提案(Way forward)を代表して行ったり、議長からの指名によりFeature leadやラポータ(ラポータの役割等はこちらの記事を参照下さい)、特定のセッションの議長役を務めたりなど、議論の進捗に貢献するような役割の経験を多く積むことができました。 自分自身としても議長や副議長となってRAN1に貢献することを目指したいと思うようになりましたし、周囲からもそのように期待をしてもらえるようになりました。

2016年2月のRAN1会合にて、リリース13のUE featureセッションの議長役を務めた際の様子

そして、2021年の5月に行われたRAN1副議長選挙、同年の10月に行われたもう一つのRAN1副議長選挙に立候補を行ったのですが、どちらも敗れてしまいました。 つまり、今回の2025年10月の選挙は自身にとって3度目の挑戦でした。

選挙戦に必要なこと

近年は以前よりも多くの会社が3GPPにおけるプレゼンスを高めてリーダーシップ職を狙うようになっており、選挙戦は過去とは比べ物にならない程に激しくなっています。 今回のRAN1副議長選挙では、投票権を持つIM数は493で、2021年の選挙時の約2倍でした。 IMとしては別でも同じグループ会社に属するIMも含まれていますので、実際に選挙活動を行う相手は493社よりは少ないですが、それでも200以上のIMに私はコンタクトをしました。 選挙の約3年前から少しずつ各IMへのコンタクトを取り始め、本格的な選挙活動を開始した2024年からは、毎回の会合参加時に休憩時間などを使って各IMのコンタクトパーソンと話をする機会を作るなどしました。

今回の選挙で対抗となったのは、Qualcomm社の方で、非常に強力な相手でした。 各IMから選挙でサポートしてもらうには、相手のIMにとって、NTTドコモの私が副議長となることでどのようなメリットをもたらすことができるのか、を伝え、それが対抗となる候補者をサポートすることで得られるメリットよりも大きい、と思ってもらう必要があります。 そのために、相手が聞きたいであろう以下のポイントを語る準備をして、各IMとの対話を繰り返し行いました。

  • 自身の経歴や経験

  • 副議長になったらどのようにRAN1をマネジメントするのかのビジョンや公約

  • チームや会社のサポート体制

  • 任期中の4年間に技術検討から仕様化までが行われることとなる6Gの初期リリースの標準化にかける想いや目指す方針

私の選挙活動は本当に多くの方に支えてもらっていました。 上記の内容を一緒に作ってくれたり、各社へのコンタクトを手伝ってくれた自社のチームメンバーはもちろん、他社の方にも自社のメンバーだけではつながることが出来なかったIMのコンタクトパーソンとつないでもらったり、NTTドコモや私のこれまでの3GPPやRAN1での貢献について彼らの言葉で伝えてもらったり、それ以外にも多くのサポートをもらいました。 選挙戦において最も必要なことは、そういったサポートや連携を頂けるような関係をどれだけの方と作れているか、だと私は思っています。

選挙当日のドラマ

10月14日の選挙当日、まず午前中に初回の投票が行われました。 初回の投票結果は、NTTドコモの私が237票に対して、対抗のQualcommの候補者が225票と、リードはしていましたがその差はわずか12票でした。 3GPPの選挙のルールとして、候補者が2名の場合、どちらかが実際に投票された票の71%以上を獲得した場合はその時点でその候補者が選出されますが、そうでない場合はもう一度投票を行うかあるいは諦めるか,を各候補者が決めることとなっており、上記の結果から両候補者がもう一度投票を行うことに決めました。

初回の投票結果が出て決戦投票を行うことが決まった午前11時頃から、決選投票の締め切りの午後4時半頃まで、両陣営それぞれが改めて各IMにサポートをお願いするためコンタクトを取りました。 私自身やチームメンバーが現地にいる各IMのコンタクトパーソンと話をすることはもちろん、現地参加をしていないチームメンバーや他社の方にも協力をしてもらい、人脈を活かした交渉や説得を行いました。

両陣営がそのように全力で最後の選挙活動を行い、決選投票の結果が出たのが現地時間の午後4時半過ぎで、結果はNTTドコモの私が237票に対して、対抗のQualcommの候補者が234票、その差わずか3票でした。 このような僅差でも決戦投票ですので、この結果をもってRAN1副議長選挙は終了となりました。

選挙の結果は会合レポートの12章に記載されています。

選挙を振り返っての感謝とRAN1副議長としての決意表明

決戦投票の結果が発表された後に、RAN1議長が両候補者にスピーチをする機会をくれました。 その時は投票結果を見るまでの極度の緊張が続いたことと、結果がわずか3票差の僅差での勝利であったことへの驚きを含めた複雑な感情から、正直きちんとしたスピーチができたのか、自分自身よく覚えていません。

ただ、私がそのスピーチで伝えたかったことは、間違いなく選挙を振り返っての感謝とRAN1副議長としての決意表明の2点でした。 上記のとおり、本当に多くの方からの支援のおかげで、今回の結果を得ることができました。 そこには、会社間の利害関係や業務としての必要性を超えた、信頼関係もあったと私は思っており、そのような関係を作ってもらえたことに心から感謝しています。

そしてその信頼に応えるためにも、RAN1副議長としてここからの4年間、全力でその責務を全うしたいと思っています。 業界全体が更に成長・発展し、お客様に価値あるサービスを届けて私たちの生活がより豊かになり、社会課題の解決にも貢献できるよう、他社も含めRAN1に参加している全ての方と協力して標準化作業を行っていきます。

結果発表後のスピーチ時の様子