NTTドコモR&Dの技術ブログです。

データ活用を社内文化へ──PdMが挑むキャズム越え。SECIモデル活用事例

はじめに : データ活用じわじわ浸透してきた今直面するキャズム 突破口はSECIモデル!?という話

ドコモのデータプラットフォーム部で、社内向けデータ活用プロダクトPochiのPdM(プロダクトマネージャー)を務める浜松です。

これまで、「誰でも使いやすい」をテーマに社内向けデータ活用プロダクトを提供し、利用浸透のためにさまざまな取り組みを続けてきました。 具体的には、

  • 現場からアイデアを募集し形にする データ活用アイデアコンテスト
  • 実際に触りながら体験 ハンズオンイベント
  • 先行ユーザーの活用事例を共有する ベストプラクティス化

といった活動です。

こうした活動を通じて、プロダクトは現場へとじわじわと浸透し利用者数、利用ケースも増えてきました。しかし、一定のタイミング以降、利用者の伸びが鈍化してきました。 それが、プロダクト成長理論で語られる “キャズム” です。

「自ら興味をもって使う層」から「大多数が当たり前に使う層」へ広げる際に生まれる大きな溝。それがキャズムです。 プロダクトが“良いから広がる”段階は終わり、ここから先は 意図的な仕掛けや組織的な動きが必要です。 私たちのプロダクトもまさにいま、“自発的な利用拡大フェーズ”から“定着フェーズ”へと移行しようとしています。 では、キャズムを越え、より多くの人が自然と使い続ける状態をつくるために、私たちは何をすべきなのか? 納得しうるその解を、SECIモデルに当てはめ整理することで得たという事例を以降記載したいと思います。 組織でのプロダクト浸透、PdMなどに興味や経験のある方に少しでも参考なればと思います。

本プロジェクトのメンバーである浜松と、三上の共著で以降記載します。

社内データ活用プラットフォームPochi※1とは

私たちDP部は社内のデータ民主化を目指し、StreamlitとGoogle Cloudで圧倒的に使いやすいデータ活用プラットフォームを開発・推進しています。このプラットフォームは、24年度は30万時間もの業務効率化を実現し、直近では5,000人以上の社員に利用が拡大しています。
ASCII.jp:NTTドコモ、Streamlit利用の“ポチポチ分析アプリ”開発で社内データ活用を促進 (1/3)
※1: Pochiは社内の開発コードネームです

この記事は誰向けか?

  • PdMやプロジェクトマネジメント等に関心のある学生や携わる社会人
    • SECIモデルによるナレッジ浸透に関心のある方

1. SECIモデルに着目した理由

モヤモヤを“構造化”してくれたフレームワーク 「これまでやり方の継続では広がりに限界がある」そんな漠然とした課題感を抱えながら、私たちは次の一手を考えていました。

  • 研修や説明を強化すればいいか?参加者をみるとリピート率が高い傾向がある。では、利用促進の告知を増やせば?それで本当に新規ユーザに届くのか?

どれが本質的に有効か手段なのか?決め手に欠いている状態でした。また、我々のリソースにも限界があります。理想言えば、我々の手を離れて利用が自然と広がっていくユーザが新たなユーザを取り込む循環のようなもの仕組みだよなぁという思いがありました。 チームでもディカッションしていく中で、「データ活用が定着するためには、単にツールが使われるだけではなく、人がどう知を共有し、行動を変えわるかかが重要だとなのでは?」このような観点から探していくうちに出会ったのが、SECIモデル(野中郁次郎氏) でした。

SECIモデル

SECIモデルがモヤモヤを言語化してくれた

SECIモデルは、以下の4つの知識循環のプロセスを示しています。

  1. 共同化(Socialization)
  2. 表出化(Externalization)
  3. 連結化(Combination)
  4. 内面化(Internalization)

出会ったとき、私たちのこれまでの取り組みを当てはめて考えてみると、モヤモヤとしていた課題が見えてきました。

  1. 共同化 → 業務課題とデータ活用の接点を見つける
  2. 表出化 → 活用事例を言語化し、発信する
  3. 連結化 → 事例を全社向けにハンズオン形式で展開
  4. 内面化 → ユーザ自身が一人称で試行錯誤できること、またはそのきっかけ(未整備)

「内面化に対する取り組みが課題だ!」 これにより、漠然とした「次に何をすべきか?」というモヤモヤが、「この順番で取り組めばキャズムを越えられるかも」 という具体的な道筋に変わりました。

なぜ内面化ができていなかったのか?

そもそもPochi自体は、誰でも簡単にぽちぽちすれば、利用できることをコンセプトに展開をしてきました。まずは触ってみれば、便利さ、有用性を感じ、ユーザ自体は伸びてく想定でした。実際に、ユーザ数はキャズム問題に直面し停滞するまでは、順調に伸びていました。 そういった背景もあり、内面化を課題と認識することがすぐにできませんでした。ですが、SECIモデルの観点で、利活用促進の活動において、振り返ったときに、明らかに内面化に関してピースが足りてないと、課題感に気づくことができました。

2. 取り組み全体像

4フェーズで捉えたプロセス紹介

私たちはデータ活用の定着を目指すうえで、SECIモデルに基づき取り組みを4つのフェーズに整理しました。その結果共同化・表出化・連結化までの仕組みづくりは順調に進んでいることがわかりました。一方、「利用自身の行動のきっかけづくり=内面化」の部分が弱く、ここに次の成長の壁があると気づきました。この気づきを踏まえ、2025年度は新たに“内面化フェーズ”に重点を置いた施策の検討を開始しました。

ここではその4フェーズをそれぞれのどのように解釈して、整理したかを説明していきます。

SECIモデルは、一般的に、ベテランの勘・コツを言語化すること、完全に属人化したタスクや、バラバラな個人の経験を、組織の“資産”に変えるための非常に美しいフレームだと思うのですが、これを実際に解釈して、実践するのって結構難しいのかなと思います。

具体的には「暗黙知ってそもそもなに?どこからどこまでが暗黙知と定義するか?共同化のためにどうすればいいのか?暗黙知から共同化までの流れができたとしても、循環するサイクルとして成立しているのか?」など。実際に、フレームに我々の取組みをすんなり当てはめことができたわけではありませんでした。我々の整理が正解とも思っていませんが、同じようなシーンで悩んでいる方に少しでも参考なればという思いと、我々が悩んでいた際に、こんな情報があれば、めっちゃ助かったのに!ということを書いていきたいと思います。

まずはざっくり各フェーズについて以下にまとめます。

SECIモデルへ取組をマッピング

フェーズ1:共同化

業務課題とデータ分析の接点を見つける 最初のフェーズは、ユーザー同士がつながり、データ活用の価値を共感する “場づくり” です。

  • 取り組み:データ活用アイデアコンテスト、アイデア創出ワークショップの型整備
  • ねらい:業務課題とデータ分析の接点を見つける。当事者意識を醸成

フェーズ2:表出化

活用事例を言語化して全社に発信 ユーザーが得た知見や成果、成功パターンを形式知化することです。

  • 取り組み:アクセスログやコンテスト参加者をもとに事例執筆を依頼、活用事例を全社向けに発信
  • ねらい:“自分もこうやればうまくいく” を明示することで再現性を高める

フェーズ3:連結化

事例を全社向けにハンズオン形式で展開、表出化した知見を、実際にその場でハンズオン形式で実施します。

  • 取り組み:活用事例をハンズオンイベントで紹介、全社へ横展開
  • ねらい:再現可能な仕組みとして定着

フェーズ4:内面化

きっかけづくりと小さな成功を積み重ねプロダクトを自発的に使う状態に導くことです。

  • 取り組み(現在実施中・・):ユーザがプロダクトに触れるきっかりづくりとして、YouTubeショートのようなキャッチーな多面的にプロダクトを紹介する動画の発信をしています
  • ねらい:キャズム越えを意識した“使ってみたい”状態を目指す SECIモデルに過去の取組をマッピング

以降の章で、それぞれの取り組みについて詳しく説明したいと思います。


3. 共同化 ~業務課題とデータ分析の接点を見つける~

データ活用は、ツールの機能よりも「どんな課題に使うか」ユーザ起点のほうがより定着し、実用性が高いと思います。しかし、業務課題は人によってバラバラで、しかも暗黙的で言語化しづらいです。 そこで必要になるのが、ユーザー自身が業務内容を振り返り、解決したい課題を見つけ出す作業です。この作業が言語化で、共同化ではないかという考え方です。

データ活用アイデアコンテスト

  • 狙い:
    • 現場が抱える課題を可視化し、データ分析の接点を見つける
    • 自発的に「データを使ってみよう」ときっかけの場作り
  • 取り組み内容:
    • 社内全体からデータ活用のアイデアを募集
    • 応募アイデアの評価・表彰を通じて注目度を高める
  • 成果・気づき:
    • データで解ける業務課題は多くあるということ
    • 「自分たちもできる」という前向きな空気が醸成されたこと
    • 現場起点だからこそ実際に活用が進むこと

アイデア創出ワークショップの型整備

  • 狙い:
    • データ活用アイデアを生むプロセスを標準化
    • 初心者でも参加しやすい環境をつくる
  • 取り組み内容:
    • アイデア創出のステップをドキュメント化
    • ワークショップで「業務の棚卸し→課題抽出 → データ活用アイデア → プロダクトの簡易な企画」の流れを定型化
  • 成果・気づき:
    • 型を整備したことで、参加者がスムーズにアイデアを出せるようになった
    • 初心者やデータ分析未経験者も、抵抗なく参加できる雰囲気が生まれた

共同化フェーズの意義

共同化フェーズで得られる最大の価値は、“当事者意識” だと思います。

「データ分析は技術に特化した人間でないとできない。難しい。」という先入観を持った方が多いと思います。 そういった中で、アイデアの創出プロセスを整備することで、業務の棚卸、業務課題のボトルネックなどを発見でき、それを言語化することで共同化が達成されます。 また、アイデアを実際に開発し形にすることで ・プロダクトが「自分の業務にも使える」という当事者意識 が芽生え、こうした意識を醸成することでできたと思っています。


4. 表出化 ~活用事例を全社に発信~

共同化フェーズでアイデアをすべて開発できればいいんですが、開発リソースにも限界があるので一定の審査を経てのアイデアを開発し、全社に公開しています。 そこで、徐々にユーザの利用が生まれ、成功や工夫などのナレッジを生まれます。それを形式知に変換し、全社で再現できる状態に整えることを狙いました。

ユーザーへの事例執筆依頼

  • 狙い:
  • 「具体的な利用方法」「その結果得られた成果」を明示することで、読書が活用するメリットを理解でき再現できること
  • 取り組み内容:
    • コンテスト参加者や活用が進んでいる部署に執筆を依頼
    • 記事執筆はなるべくフォーマット化し、執筆者への負荷がなるべくかからない形で用意
    • 記事は全社員が見えるよう公開。業種別などで分類し表示
  • 成果・気づき:
    • 生の声が、同様な業務に携わる社員を中心に参考となり、横への展開が広がった
    • 成功体験の言語化により、ナレッジの可視化と再現性が向上した

表出化フェーズの意義 表出化フェーズの核は、ユーザの知見を他者が再利用できる形に変えることかと思います。 類似業務に携わる人が読んだときに、自分でもその通りやればできる再現可能な状態にすることができました。


5. 連結化 ~ハンズオンイベントを展開~

表出化フェーズで作成された活用事例や成功パターンを、ただ読んでわかった気になるだけでは、実際に利用にはつながらないです。利用して、定着して欲しいです。また、事例を公開しても、必要に迫られない限り読まない人が多いのも実情です。このフェーズでは、他社の事例を、自分で再現すること。つまり実際にその場で、参加者にハンズオン形式であることに重きを置きイベントを開催しました。

ハンズオンイベントの開催

  • 狙い:
    • プロダクトの価値、簡単さを体験し、自分でもできると感じてもらうこと
    • 事例として成果を上げた方法を自身で再現できるようになってもらうこと
    • プロダクトへの興味関心を高めて、活用の幅を広げてもらうこと
  • 取り組み内容:
    • 表出化で作った事例を教材としてイベント化
    • ハンズオン形式で操作体験を提供
    • 具体的な業務課題を題材に、自分ごととして取り組める内容
  • 成果・気づき:
    • 参加者は「こうやれば自分の業務でも使えそう」と実感

連結化フェーズの意義

個人の成功体験を、組織全体が学べる“共有資産”へと変換することです。 事例や成功パターンをハンズオン形式で他のメンバーが体験できるようにすることで、ただの「いい話」に留めず、参加者は再現できる形へと変わります。 ハンズオンによる“体験”が理解と定着のトリガーになり、 実際に手を動かすことで「読んだだけ」では得られない納得感が生まれ、利用への心理的ハードルが一気に下がります。この体験が、継続利用や自走につながる強いきっかけになったと思います。

6. 内面化 ~使いたくなるへ 軽いきっかけが鍵?~

内面化のフェーズは、プロダクトのそもそもの認知や、使うきっかけづくり を狙った取り組みです。 楽しさや興味の喚起を通して自発的に触れてもらえることに重きを置きました。 実際にそのために何をすべきか?、、ここにも苦難がありました。 最初、私たちは、活用方法を学べるe-ラーニングサイトのようなものを試験的に作りました。狙いとしては、隙間時間に、自分で学べるものがあると、自己完結型で理解と利用が進むのではという仮説です。そこで何名かの被験者に体験いただきました、結果としては、データ分析が苦手、難しい、忙しいという人が、相当な熱量や危機感がないとe-ラーニングサイトへ訪れないよねという、あまり前なことに気づかされました。 もっと手軽に短時間で要点を得て、きっかけを与えるようなものが良いと痛感しました。そしてそのきっかけは、簡単とか面白そうとか、やってみたいと思うようなものであったほうが良いと考えました。

キャッチーな情報発信

  • 狙い:
    • プロダクトの魅力を多面的に伝え、自然に触れるきっかけをつくる
    • 面白さや短時間での情報提供により、新規ユーザー獲得を狙う
  • 取り組み内容:
    • YouTubeショートのような1分程度の動画で、多面的にプロダクト機能や活用ポイントを紹介
    • 動画視聴後に実際に触れてみたくなるよう、短いアクションを提示
    • 生成AI活用し、動画以外にもコンテンツを作成し発信
  • 成果・気づき:
    • この取組自体は、近々本格的に実施を始めたところで、訪問数や、CV状況などから試行錯誤を実施している段階ですが、訪問・CVが徐々に取れていきている状況です。

内面化フェーズの意義

データ活用は「理解したら使える」ではなく、「使ってみて初めて習慣になる」領域です。そのため、内面化フェーズでは“まず触ってみるきっかけ”を作ることが最重要だと考えました。ショート動画という形にしたのは、文章や研修よりも心理的ハードルが低く、継続接触しやすいためです。

  • 楽しさや興味喚起を通じて、知識を日常の行動に落とし込む
  • 形式知や事例を読んだだけでなく、自分で触れて体験することで定着率が高まる
  • キャズムを越えるには、単なる「使い方教育」だけでなく、このような自発的体験の仕組みが鍵

7. 最後に

最後まで読んでいただきありがとうございました。 データ活用を組織の文化とする取組みを、SECIモデルを交えて、実例を紹介させていただきました。この4フェーズの循環のために、引き続き尽力していきたいと思います。 現在、似たようなお悩みを抱えている方にとって、この取り組みが参考になれば、また、PdMという仕事に少しでも興味を持っていただけたら嬉しいです。