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参加者約4,000人、JANOG会場ネットワーク構築舞台裏とは!

そもそも「JANOG」ってなに?

JANOG(ジャノグ)は、「日本のインターネットを裏で支えている人たちのコミュニティ」です。 正式名称は JApan Network Operators' Group 。1997年から続くコミュニティです。

「インターネットを良くしたい」一点でつながる場所。ここには、通信会社(ISP)、クラウド事業者、Webサービス企業、データセンター、そして最近はインターネット技術に興味があるエンジニアのタマゴである学生など、立場を超えた多種多様な方が集まります。 会社同士ではライバルかもしれない関係でも、ここでは「インターネットをより快適に、安全にする」という共通の目的のために、技術や運用の悩みを腹を割って話し合います。

夏と冬の年2回開催されるイベント「JANOG Meeting」は、ただ話を聞くだけの場ではありません。 最新技術の動向から、現場での泥臭いトラブル事例までを共有し、会場全体で「どうすれば解決できるか?」「未来はどうあるべきか?」を熱く議論します。

私たちNOCチームは、そんな熱い議論を交わす4,000人のエンジニアたちが集まる会場に快適なインターネット環境を構築・運用しています。 JANOGにはNOCチームとは別にもう一つチーム(実行委員会)があり、プログラム選考や会場準備・進行・イベント等を企画・運営をしてくれています。

NOCチームとは何か?

本来のNOCという言葉はネットワーク運用センタを意味しますが、NOC(Network Operation Center)チームとは、イベント会場等の主にインターネット環境を設計・構築・運用するチームのことを指すこともあります。

私たちNOCチームのミッションは単純明快。 「会場内のすべての参加者に、快適で安定したWi-Fi環境を提供すること」

しかし、その中身は単純ではありません。 4,000人規模のエンジニアが思い思いにインターネットへ接続し、時にはVPNを繋ぎまくる……。一般的な商業施設とは比較にならない「高密度・高トラフィック」な環境です。

チーム構成:半数は「未来のエンジニア」

NOCチームは毎回公募による募集・選考を行い、50名前後で構成されています。NOC活動を通じて普段の業務等では得られない経験や同世代の繋がりを構築してもらいたいという考えから、チームの半分以上が学生や若手社会人で構成されています。

ボードメンバー: NOCチーム運営メンバー

チームリーダー:インターネットに関わる様々な企業の業務経験者

一般メンバー: 学生、新卒、若手エンジニア

この構成がJANOG NOCチームの最大の特徴です。ベテランの知見を若手に継承し、若手の爆発的な行動力がベテランを刺激する。単なる「構築作業」ではなく、「教育と交流の場」としても機能しています。

Team BAKUCHIKUについて

必ず毎回ではありませんが、JANOG NOCチームは「Team BAKUCHIKU」にて運営しております。私(中村)はその中で6人いるボードメンバーの一人を務めています。

Team BAKUCHIKU/私達の行動指針

私たちは、会議やカンファレンスの会場ネットワーク構築を通じて、コンピュータネットワークとインターネットの楽しさ、重要さを伝え続けます。活動においては、参加者・主催者・ホスト・機材物資の提供者の間を尊重し合うように行動します。

役割分担

BAKUCHIKU役割分担

ボードメンバー

岡田 雅之 a.k.a moai
神屋 郁子 a.k.a 神屋先生
佐々木 健 a.k.a ささけん
下川 俊彦 a.k.a toshi
谷崎 文義 a.k.a Tany
中村 真之助 a.k.a のすけ

5つの専門チーム

「NOCチーム」とひと口に言っても、全員が同じ作業をしているわけではありません。 私たちは機能ごとに以下の5つの専門チームに分かれ、それぞれのスペシャリティを発揮しています。各チームが有機的に連携することで、初めて巨大なネットワークが動き出します。

1. バックボーン (Backbone) 会場ネットワークとインターネット(対外接続)を結ぶ、まさに心臓部を担当します。 ISP様から提供される広帯域回線を引き込み、BGPを回し、コアルーターを運用します。たった一つのミスが全断につながるため、最強の緊張感と責任感が求められるポジションです。

2. L2/L3ネットワーク (L2/L3) 会場全体に張り巡らされる「ネットワークの毛細血管」を構築します。 フロアスイッチの設計、VLANの構成、冗長化設計などを担当。数千台のデバイスを収容するためのIPアドレス設計や、ループ事故を防ぐ設計など、論理構成の「美しさ」が問われるチームです。

3. AP (Access Point) 来場者が最も触れる「Wi-Fi」の品質責任者です。 会場図面をもとにAPの配置設計(サーベイ)を行い、電波干渉や混雑具合をシミュレーションします。「繋がるけど遅い」を許さない、見えない電波と戦う職人集団です。

4. サーバ (Server) ネットワークを動かすための「頭脳」と「目」を作ります。 DHCP、DNSといった基盤サービスの構築から、トラフィック監視、ログ収集、可視化ダッシュボードの作成まで担当。ネットワーク機器からの膨大な情報を捌き、運用を楽にするための自動化(IaC)にも積極的です。

5. ケーブル (Cabling) 「物理層(Layer 1)最強」を体現するチームです。 会場内を這う数キロメートルにも及ぶLANケーブルや光ファイバーの配線、そして芸術的な「養生」を担当します。どんなに高度なルーティングも、ケーブルが一本抜ければ終わりです。美しく、安全で、絶対に抜けない物理配線を追求します。

本番は開催前から始まっている:「Hot Stage」

イベント当日の数週間前、私たちは「Hot Stage(ホットステージ)」と呼ばれる事前検証期間を設けます。

ここでは、会場で使用する数百台のスイッチ、ルーター、Wi-Fiアクセスポイント(AP)を会議室に持ち込み、本番と全く同じ構成を組み上げます。

ここでは以下のようなことが行われます。

コンフィグの投入と自動化: Ansibleなどを駆使した数百台の一括設定

負荷試験: 想定されるトラフィックを流し、機器が悲鳴を上げないか確認

トラブルシューティング: 「なぜか繋がらない」「想定外の挙動」を徹底的に潰す

ここでは、学校や普段の業務では触れないようなハイエンド機材に触れることができます。学生メンバーが目を輝かせながら(時には青ざめながら)、CLIと格闘している姿はNOCの名物です。

怒涛の会場構築:L1との戦い

イベント直前、いよいよ会場入りです。ここからは物理層(Layer 1)との戦いです。

広いホールにAPを設置し、総延長何キロメートルものLANケーブルを配線し、養生テープで固定する。 「パケットは飛ばせても、ケーブルは物理で運ぶしかない」 これがネットワークエンジニアの真理です。

メンバー全員が連携し、チームリーダーの指示のもと、広大な会場に「見えない道」を作り上げていきます。構築完了後、最初のPingが通った瞬間の安堵感は言葉にできません。

会期中:ダッシュボードを見守る3日間

イベントが始まると、NOC部屋(監視部屋)が作戦司令室になります。

トラフィック監視: グラフのスパイクをチェック

死活監視: 会場で動作しているすべてが正常に稼働しているかを監視

トラブル対応: 「あそこのエリアだけ遅い」という報告への即時対応

4,000人が一斉にWi-Fiを利用し、トラフィックグラフが急上昇する様は圧巻です。 「落ちない、遅くない、切れない」 この当たり前を維持するために、チーム全員がモニターを凝視し続けます。

なぜ私たちはNOCをやるのか

正直、めちゃくちゃ大変です。睡眠時間も削られますし、プレッシャーも凄まじいです。 それでも、なぜ毎回これだけのメンバーが集まるのでしょうか?

それは、「ここでしか得られない経験と仲間」があるからです。

教科書通りのネットワークではなく、生き物のように変化する大規模ネットワークを制御するライブ感。 そして、所属企業の垣根を超え、学生も社会人もフラットに技術で殴り合える(語り合える)関係性。

JANOGが終わる頃には、参加した学生たちは驚くほど逞しい顔つきになっています。ここでの経験を経て、インターネット関連の企業に入社し・即戦力として頑張っている姿を見るのがボードメンバーの楽しみの一つでもあります。

おわりに

JANOGの会場でパソコンやケーブルを抱えながら走り回っているスタッフを見かけたら、「あぁ、彼らがパケットを運んでくれているんだな」と思い出していただけると嬉しいです。

そして、もしこのブログを読んでいる学生さんや若手エンジニアの方がいれば、ぜひ次回のNOCに応募してみてください。 技術と熱狂の渦が、あなたを待っています。

ぜひ会場でお会いしましょう!