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IEEE APCC 2025における6G MIMO省電力技術のBest Paper Award受賞及び発表報告

はじめに

こんにちは。ドコモ北京研究所の王 帆(ワン・ファン)です。

私たち北京研は、2025年11月に大阪で開催されたAPCC 2025 (The 30th Asia-Pacific Conference on Communications) において、「Efficient CSI Feedback with Nested Codebook for 6G MIMO Energy Saving」と題する、6G MIMOネットワークにおける省電力技術に関する論文を発表しました*1。本論文はAPCC 2025 Best Paper Awardを受賞しました*2

昨年のAPCC 2024に続き、2年連続のBest Paper Award受賞となります。nttdocomo-developers.jp

本稿では、本研究の背景、技術的な要点、評価結果を紹介するとともに、将来の6G MIMOおよび省電力技術への貢献可能性について紹介します。

図1 APCC 2025 Best Paper Award受賞について

IEEE APCC 2025について

APCCは、アジア太平洋地域における歴史ある国際会議であり、通信およびネットワーク分野の研究者・技術者が最先端技術について議論する場を提供しています。第30回となる APCC 2025は、2025年11月26日から28日にかけて日本・大阪で開催されました。本会議はIEICE Communications Society(IEICE-CS)が主催し、KICS(韓国情報通信学会)、CIC(中国通信学会)、IEEE ComSoc Tokyo Joint Chapterが技術協賛を行いました。APCC 2025には31か国以上から177件の論文投稿があり、厳格な査読を経て108件が採択されました(採択率:約61%)。この中から Best Paper Award に選出された論文はわずか3件であり、本研究はその一つとして表彰されました。

発表の概要

APCC 2025では、本研究は技術セッションの一つにおいて事前収録形式で発表されました。発表では、6G MIMOにおける省電力化を目的とした技術提案の動機、設計思想、性能評価結果を紹介しました。

図2 プレゼンテーション

6G 超大規模MIMO基地局は、ネットワーク負荷に応じてアンテナを動的にオン/オフすることで、高負荷時の大容量と中・低負荷時の高エネルギー効率を両立できます。中・低負荷シナリオでは、基地局はUEがフィードバックする複数のsub-PMIを含む全ポートCSIを用いて、各アンテナポート構成(128/64/32/16など)におけるスループット性能を推定し、最適なアンテナ構成を選択することで、スループット低下を抑えつつ省電力化を実現します。

一方、多様なアンテナポート構成をサポートするため、5G-A(3GPP R18)ではUEが複数セットのCSIを測定・フィードバックする必要があり、オーバーヘッドが増大する課題がありました。 本研究は、新たなコードブック設計によりUEのフィードバックオーバーヘッドを削減し、6G超大規模MIMO基地局の省電力運用をより効率的に実現します。具体的には、異なるアンテナポート構成(128/64/32/16)間に存在する空間相関を活用し、複数のsub-PMIを内包するネスト構造のCSIコードブックを提案しました。UEは1セットの全ポートCSIのみをフィードバックし、基地局はKronecker積やCooley–Tukey FFT に基づくアルゴリズムを用いて各アンテナポート構成に対応するCSIを再構成します。

提案手法はスループット性能はRel-18基準とほぼ同等を維持しつつ、CSIフィードバックオーバーヘッドを約44%削減します。

背景

国際電気通信連合の無線通信部門(ITU-R)は、2023年6月にIMT-2030(6G)の6つの主要なアプリケーションシナリオを正式に発表しました。具体的には、没入型通信(Immersive Communication)、超高信頼・低遅延通信(Hyper-Reliable & Low-Latency Communication:HRLLC)、大規模通信(Massive Communication)、ユビキタス接続(Ubiquitous Connectivity)、センシングと通信の統合(Integrated Sensing & Communication)、およびAIと通信の融合(Integrated AI & Communication)が含まれます。

このうち、没入型通信、超高信頼・低遅延通信、大規模通信は、5GにおけるeMBB、URLLC、mMTCの3つの主要シナリオを強化・拡張したものであり、センシングと通信の統合、AIと通信の融合、ユビキタス接続は、6Gにおける新たな能力次元を示しています。

ドコモは、6GがAI for Networkを基盤として、Sustainability(持続可能性)、Efficiency(効率性)、Customer Experience(顧客体験)、Connectivity Everywhere(あらゆる場所での接続)、Network for AIの5つの側面において、新たな価値を創出すると考えています。

MIMO技術は、4Gおよび5G時代において商用的に大きな成功を収めており、5G-Advancedおよび6Gの時代においても、依然として重要な物理層の中核技術の1つです。XGモバイル推進フォーラムは、「Beyond 5G White Paper – 6G Radio Technology Project: Advanced MIMO Technology」を公開し、5G-Advancedから6Gへの進化パスを示しています。同ホワイトペーパーでは、AI/MLネイティブネットワーク、新周波数帯(FR3 等)の利用、およびエネルギー効率に優れたMIMO技術などが重要な方向性として挙げられています*3。6G Day 1においてはUpper 6 GHzやFR3帯が候補周波数とされており、高いパスロスに対応するため、128/256アンテナポート規模の大規模アンテナアレイが不可欠となります。その一方で、制御信号・参照信号のオーバーヘッド増加や消費電力増大といった新たな課題が生じます。

図3 3GPPにおけるadvanced MIMOに関連する最近の活動

このような背景のもと、空間領域におけるNESが有望なアプローチとして注目されています。gNBはトラフィック状況やカバレッジ要求に応じてアクティブなアンテナポート数を動的に切り替え、高負荷時にはスループットを最大化し、低~中負荷時には一部ポートを停止することで消費電力を削減します。Rel-18ではすでに、複数のNESサブ構成を設定し、それらの間で動的にアンテナポートを切り替える仕組みが導入されており、将来の大規模MIMOに向けた重要な第一歩となっています。

図4 アンテナポート適応による省電力MIMO

解決すべき問題

Rel-18の空間領域NESフレームワークでは、gNBが複数のアンテナポート構成を持つ NESサブ構成を設定します。Type-I CSIを用いる場合、各サブ構成は独立した CSIレポート対象として扱われ、UEはサブ構成ごとに個別のCSIを生成・フィードバックする必要があります*4

この設計は、6Gの大規模Massive MIMOにおいて以下の課題を引き起こします。

  • 第一に、構成されるNESサブ構成(subcfg)の数にほぼ比例して、CSIフィードバック量が増加し、複数のアンテナポート構成を同時にサポートする場合、フィードバックオーバーヘッドが大きくなります。
  • 第二に、UE側では各サブ構成ごとにPMI探索およびCSIレポート生成を個別に実行する必要があり、実装の複雑化および消費電力の増大を招ぎます。

その結果、Rel-18の方式は、より柔軟かつ高粒度なアンテナポート適応が求められる 6Gシナリオには十分にスケールしないため、より効率的なCSIフレームワークが必要となります。

図5 Rel-18空間ドメインNESフレームワーク

提案手法

本研究の基本的なアイデアは、同一物理アンテナアレイ上における異なるNESサブ構成間の空間相関を活用し、1つの CSIレポートで複数のサブ構成に対応できるCSIコードブックを設計することです。各NESサブ構成を独立したCSI問題として扱うのではなく、複数のサブコードブックから構成されるネスト型CSIコードブックを導入します。各サブコードブックは低次元の成分ベクトルを含み、Kronecker合成やCooley-Tukey FFT に着想を得た合成規則により、異なるNESサブ構成を実現します。

図6 ネスト型コードブックを用いたマルチサブ構成向けスケーラブル CSI レポーティングの概要図

  • UE側では、フルポート構成において一度だけCSIを測定し、このフルポートチャネルに基づき、UEはサブコードブックから成分ベクトルの組を選択し、各サブ構成(subcfg)ごとに独立したPMIを報告する代わりに、サブPMIの集合(ネストPMIタプル)を含む単一のCSIペイロードを報告します。
  • gNB側では、各NESサブ構成に対して、アンテナポート配置および対応する合成規則があらかじめ設定されています。gNBは同一のネストPMIタプルを用い、設定された合成規則に従って選択された成分ベクトルを組み合わせることで、サブ構成ごとのプリコーディング行列を再構成します。

図7 サブPMIに基づくサブ構成(subcfg)CSI再構成の一例

以上より、本提案のネスト型CSIコードブック設計は、小規模アンテナポート数(例:2/4/8)に対応するCSIコードブックを所定の規則に基づいて柔軟に組み合わせることで、大規模アンテナポート数(例:64/128/256)向けのCSIコードブックを構成可能とする階層型CSIコードブック構造です。これにより、CSIフィードバックオーバーヘッドの削減が可能となります。また、UEにおけるCSIレポート手順自体はNR Type-I CSIフレームワークと整合しており、コードブックの内部構造およびPMIの解釈のみを拡張する構成であるため、標準化および実装の観点からも適合性が高い方式となっています。

コンピューターシミュレーション結果

提案方式の評価のため、6G指向のMIMO環境においてリンクレベルシミュレーションを実施しました。

  • 本シナリオは、都市マイクロ(UMi)チャネルモデル、キャリア周波数約4GHz、サブキャリア間隔30kHz、複数PRBにわたる直交周波数分割多重(OFDM)伝送を想定しています。
  • gNBには128ポートの2次元アンテナアレイを搭載し、同一の物理アレイ上において、異なるポート選択ビットマップにより4種類のNESサブ構成(128/64/32/16ポート)を実現しています。
  • UE側では、3GPP標準のアンテナパターンおよびType-Iに準拠したCSIフレームワークを想定しています。本評価では、サブ構成ごとに1つのCSIを報告するRel-18 ベースライン方式と、すべてのサブ構成に対してネストPMI(サブPMIグループ)を含む単一のCSIを報告する提案方式を比較しています。

図8 サブ構成(subcfg)間におけるスペクトル効率の比較

図9 最大アンテナポート数の違いによるフィードバックオーバーヘッド評価

シミュレーション結果より、提案するネスト型CSI方式を用いた場合、検討対象としたすべてのNESポート構成において、gNBはRel-18ベースラインとほぼ同等のスペクトル効率を達成していることが確認できます。また、サブ構成ごとに複数のCSIレポートを送信するRel-18のマルチCSI設計と比較して、本方式では1つのネストCSIレポートのみで済むため、CSIフィードバックペイロードを約44%削減できることが示されています。

議論と今後の研究

3GPP RAN1では2026年2月に6G MIMOに関する標準化議論が開始される予定であり、その中でMIMOにおけるCSI測定およびフィードバックは重要なサブトピックの一つとなっています。北京研は、論文で提案したNested Codebookの中核技術を基に、3GPPのシステムレベルシミュレーション前提条件に基づいて、マルチセル環境における提案技術の性能評価を実施するとともに、Nested Codebookが標準化に与える影響を詳細に整理し、本技術の標準化への実装・反映を推進していきます。

*1:F. Wang, X. Hou, X. Li, and L. Chen, “Efficient CSI Feedback with Nested Codebook for 6G MIMO Energy Saving,” in Proc. APCC 2025, Osaka, Japan, Nov. 2025.

*2:APCC 2025, “Best Paper Awards,” available at: https://www.ieice.org/cs/apcc/best-paper-award/

*3:XG Mobile Promotion Forum, Beyond 5G White Paper - 6G Radio Technology Project: Advanced MIMO Technology, Version 1.0, May 7, 2025.

*4:3GPP, TR 38.864, “Study on network energy savings for NR,” v18.1.0, Mar. 2023.