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5G実験を"仮想空間上で再現"? RCS研究会で語るエリア評価技術の最前線

はじめに

こんにちは、6Gテック部無線アクセス技術担当 2年目社員、伊藤幹人です。

この度、3月4日から3月6日にかけて東京理科大学で開催された無線通信システム研究会(RCS研究会)にて、『屋内工場におけるSub-6 GHz帯5G実験とデジタルツインシミュレーションによる伝送特性比較』と題して口頭発表を行いました。

本記事では、無線通信技術の動向に興味がある方はもちろん、ドコモの研究者がどのように研究開発に取組んでいるのかに関心がある方に向けて、研究会での発表内容や当日の様子、そこで得られた気づきをまとめました。ぜひ最後までご覧ください!

【本記事でわかること 】
  • ドコモで開発している新しいエリア評価ツールの取組み
  • 実環境における無線通信品質の推定方法に関する考え方
  • 若手社員が学会発表を通じて得た知見や感じたやりがい

RCS研究会とは

RCS研究会は、無線伝送や無線アクセス技術、システム構築、ネットワーキング技術、無線通信理論など無線通信システムに関する研究発表・報告・議論を行う場として、毎月テーマを変えながら開催されている学会となります。

今回のテーマは移動通信ワークショップで、移動通信に関連する他研究会との併催だったこともあり、ビームフォーミングなどの制御面の検討や、可視光通信のような新たな伝送方法の検討、海中通信の検討など多岐にわたる技術が扱われていました。

今回の研究テーマ

  • 課題:産業現場における無線設計
  • 解決策:デジタルツインシミュレーションによる事前検討
  • 本研究手法:点群データを用いた5G/6Gシミュレータ
  • 目的や狙い

第5世代移動通信システム(5G)は、スマートフォン向け通信にとどまらず、工場や物流といった産業現場での活用も広がっています。また、5Gの次の世代となる第6世代移動通信システム(6G)では、さらなるユースケースの拡大に向けて、より高い周波数帯の活用など様々な技術検討が進められています。

しかしながら、製造工場のような屋内環境では、柱や設備、作業スペースなどによって、電波の反射や遮蔽が複雑に生じます。特に、今後の活用が見込まれる高い周波数帯は、直進性が強く障害物の影響を受けやすいため、無線品質の事前検討は容易ではありません。そのため、現場における基地局配置の検討には、広いエリアにおいて電波状況を何度も実測する必要があり、検証に手間とコストがかかるといった課題が生じます。

こうした課題に対し注目されているのが、現実の空間を仮想空間上に再現するデジタルツインという考え方です。デジタルツイン環境上でシミュレーションを行うことで、「もし基地局の位置を変えたら?」「設備が増えたら電波環境はどう変わる?」といった検討が可能となります。また、その結果を現実空間へフィードバックできれば、より効率よくネットワークの改善を図ることができます。このように、現実空間と仮想空間を行き来しながら最適化を行う仕組みはサイバーフィジカルシステム(CPS)として注目されています。

本研究では、このようなCPSの考え方を無線伝送評価に適用する取組みを進めています。その一環として、実際の環境を点群データ*1として取得し、仮想空間上に再現したうえで5G周波数だけでなく6G周波数を含めて様々な設定における通信性能を評価する「点群シミュレータ」を用いました。

点群データを用いて特定の環境を仮想空間上に再現します。
デジタルツイン環境構築のイメージ

具体的な取組みとして、実際の工場で実施した5G伝送実験を、同じ条件でデジタルツイン環境上に再現しました。そのうえで、「実測結果」と「シミュレーション結果」を比較検証し、本シミュレータの妥当性や、無線伝送特性の再現性を確認することが本研究の主な目的です。ここから今後の課題を抽出し、シミュレータの高精度化につなげることを狙いとしています。そして最終的には、産業現場において、実環境に即した無線伝送特性を効率的に把握できる評価ツールとしての活用をめざしています。

実際の実験における基地局や端末のパラメータを与え、システムレベルシミュレーションを行います。
点群シミュレータの様子

今回の発表内容

前述したように、本研究では、工場で実施した5G伝送実験を対象に、点群データを用いて工場環境を再現したデジタルツイン環境上でシミュレーションを行い、実験結果とシミュレーション結果の比較評価を行いました。

これまでの比較では、下図のように、無線伝送特性のヒートマップを並べて「エリア全体として似た傾向を示しているかどうか」を確認する、定性的な評価が中心でした。しかし、この方法では、どの程度再現できているか客観的に示すことが難しいという課題がありました。

工場内におけるスループットの空間的な分布を可視化し、全体としての傾向が似ているかを定性的に確認しています。
これまでの比較検証

そこで、今回の発表では、実験結果とシミュレーション結果の差分を可視化し、定量的な比較を実施しました。

下図は実験結果とシミュレーション結果におけるスループット*2の差分を工場内の位置ごとに示したものです。

工場全体として見ると、両者は多くの地点で概ね近い値を示しており、点群データによるモデルが実環境の特徴を一定程度再現できていることが確認できます。一方で、場所によって差分の大きさにばらつきがあり、その要因については引き続き検討が必要であることも明らかになりました。

実験との差分を数値として示すことで、どの程度・どの範囲で再現できているかを定量的に評価しています。
今回の比較検証

なお、本検証ではこのような空間的な差分の可視化に加えて、累積分布(CDF)による統計的な評価も行っています。

CDFを用いた定量的な比較結果については、RCS研究会にて発表した原稿にて詳しく説明していますので、ご興味のある方はぜひそちらをご参照ください。

発表当日の様子

発表者ひとりあたり25分間の持ち時間があり、その中で発表と質疑応答が行われました。発表後には、聴講者の方々から以下のような質問をいただきました。

  • 実際の工場ではさまざまな材質が混在しているが、そうした違いを今後どこまでシミュレーションに反映していくのか
  • 今回はスループットや受信電力の観点で評価を行っているが、それ以外の観点でもどの程度一致しているかを検証する予定はあるか
  • 点群データを取得する際に、実用的な評価に必要なデータ量や取得時間はどの程度か

これらの質問を通じて、デジタルツインを用いた評価に対する関心の高さとともに、実環境により近いデジタルツイン環境を構築していく上での課題についても多くの示唆を得ることができました。

発表の様子

まとめ

新入社員(発表当時)である私にとって、今回の研究会発表はドコモの研究者として初めての学会発表となりました。発表後の質疑を通じて、単に研究内容そのものに対する質問だけでなく、ドコモとして通信技術の発展にどのように貢献していくのかという視点で期待を寄せていただいていることを強く感じました。この点は、学生時代の発表とは異なる、大きな違いであると感じています。

今回得られた示唆を踏まえ、実環境により近いデジタルツイン環境の構築に向けて、今後も引き続き研究に取組んでいきたいと考えています。

最後に、今回ご紹介したような評価手法を支える技術的な背景については、R&D Web の技術解説ページにて体系的に紹介していますので、ご興味のある方はぜひ以下のリンクもあわせてご覧ください。

www.docomo.ne.jp

参考

伊藤 幹人,須山 聡,蒋 恵玲,張 裕淵, 小林 真司(オムロン),山田 弘章(オムロン),池田 悟郎(ノキア),“屋内工場におけるSub-6 GHz帯5G実験とデジタルツインシミュレーションによる伝送特性比較”,信学技報,RCS2025-268,Mar.2025.

*1:点群データ:LiDAR(レーザースキャナー)などで取得する多数の点の集合データ。空間の形状を3次元で高精度に表現できる。

*2:スループット:一定時間あたりに通信できるデータ量のこと。数値が大きいほど、より多くのデータを高速に送受信できていることを示す指標。