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HAPS/NTN研究はどこまで進んだか? 国際会議VTC2026-Springで見えた最新動向と干渉制御の論点

はじめに

こんにちは!6Gテック部の外園です。
我々は非地上ネットワーク(NTN)および高高度プラットフォーム(HAPS)の研究開発に携わるエンジニアとして、2026年6月9日〜12日にフランスのニースで開催されたThe 2026 IEEE 103rd Vehicular Technology Conference(VTC2026-Spring)[1]に参加しました。
VTCは、IEEE Vehicular Technology Societyが主催する、無線通信・モビリティ分野における世界的な主要国際会議の一つであり、春と秋の年2回開催されています。
本会議では、隣接HAPSシステム間の干渉低減に向けた、サービスリンクにおけるTDD反転同期方式について発表を行いました。

VTC2026-Springの開催看板

この記事では、VTC2026-SpringにおけるHAPS/NTN研究の動向を俯瞰しつつ、実運用を意識した研究の進展という観点からその特徴を整理します。あわせて、自身の発表内容を通じて、HAPS特有の干渉構造や、反転同期TDDによる干渉抑制の考え方について概要を紹介します。

この記事でわかること

  • VTC2026-SpringにおけるHAPS/NTN分野の研究トレンド
  • 理論検討から実装・実証を意識した研究への変化
  • 地上ネットワークとの違いから見たHAPS特有の技術課題
  • 反転同期TDD方式による干渉抑制の考え方と効果

フランス・ニースで開催!VTC2026-Springの様子

まずは会場の様子から簡単にご紹介します。
ニースは地中海に面した南フランスの都市で、観光地としても非常に有名です。会場となった OcéaNice Convention Centre は海沿いに位置し、非常に開放的な環境での開催でした。

学会会場OcéaNice Convention Centre

会場では複数のトラックでセッションが並行して開催されており、

  • 衛星通信・非地上系ネットワーク(NTN)
  • MIMO、チャネル推定、ビームフォーミングといったPHY領域
  • 機械学習(AI/ML)を活用した通信技術
  • RIS(再構成型インテリジェントサーフェス)
  • 自動運転・V2Xなどのモビリティ分野

など、非常に幅広いテーマが扱われていました。

VTC2026-Springで見えたHAPS/NTN研究の動向

今回のVTCでは多様な分野の発表がありましたが、その中でもHAPS/NTNに関する研究も一定数見られ、非地上ネットワークが6Gの重要な検討対象であることがうかがえました。
その内容を整理すると、HAPS/NTN分野としては主に以下の2つの方向性が見られました。

① 伝搬・チャネルモデルの高度化
一つ目は、HAPS/NTN特有の伝搬環境に関するモデルの精緻化です。
高高度からの通信では、

  • 見通し(LOS)が支配的
  • ただし都市環境では遮蔽(シャドウイング)も存在

といった特徴があり、地上ネットワークとは異なるチャネル特性を持ちます。
今回の発表では特に、

  • シャドウイングの統計的な性質
  • 時間的・空間的な相関

に着目した研究が見られました。

また、機械学習を用いたチャネル状態予測の検討も行われており、Long Short-Term Memory(LSTM)のような時系列モデルを用いることで、時間的に連続する通信品質の変動を予測するアプローチが提示されていました。
これらは、より現実に近い通信環境を再現するための基盤技術として重要な方向性といえます。

② 実装・実証を意識したシステム指向の研究の進展
二つ目の特徴として、理論検討に加えて、実装や実証を意識した研究が進んでいる点が挙げられます。
具体的には、

  • 無人航空機(UAV)や有人航空機を用いた、HAPS/LEO搭載を想定したビーム制御およびカバレッジ安定化の検証
  • 実環境での受信電力やスループットの評価

など、実運用に近い条件での評価が行われていました。
これは従来のシミュレーション中心の研究から一歩進み、「実際に動かしたときに成立するか」を確認するフェーズに入っていることを示しています。
なお、HAPSと地上ネットワークの共存における干渉やスループットを扱う研究も一部存在しましたが、これは今回のVTC全体の主流というよりは、個別テーマとして位置づけられるものであり、全体としては「実装・実証志向の強まり」の中で捉えるのが適切と感じました。

TDD-HAPS干渉制御の提案と最新動向との関係

ここからは、自身の発表内容について、その狙いと結果を簡潔に整理しつつ、今回のVTCにおけるHAPS/NTN研究の流れの中でどのように位置づけられるかを紹介します。
論文名:Inverse Synchronization Scheme for Mitigating Beam Interference between Adjacent HAPS Systems in TDD Service Links

HAPSで「干渉の前提」が変わる
本研究の出発点は、
 HAPS環境では、地上ネットワークと干渉の構造が本質的に異なるのではないか
という問題意識です。

地上ネットワークでは、主に基地局間や端末(UE)間の干渉が支配的ですが、HAPSでは高高度から広範囲をカバーするという特性により、

  • 基地局からUEへの干渉
  • UEから基地局への干渉

といった、上下リンク方向の干渉が支配的になる傾向があります。
ソーラープレーン型HAPSが複数並走し、同一チャネルを利用するシナリオで評価を行った結果、従来の地上TDDで前提とされてきた「時間同期」による干渉回避が必ずしも有効に機能しない可能性が示唆されました。
つまり、地上ネットワークを前提とした設計思想そのものを見直す必要があるという点が、本研究の重要な結論です。

TDD方式を利用する地上システムとHAPSシステムにおける干渉影響の比較

SWaP制約下で成立するシンプルな干渉制御
このような環境において干渉をどのように抑制するかが次の論点となります。
HAPSでは、Size(サイズ)、Weight(重量)、Power(消費電力)からなるSWaP(Size, Weight and Power)制約が非常に厳しく、

  • 大規模な協調制御
  • 高度なビーム最適化

といった複雑な手法の導入は容易ではありません。
そこで本研究では、シンプルかつ実装可能な方式に焦点を当て、TDDの上下リンクを隣接HAPS間で意図的に反転させる「反転同期TDD方式」を検討しました。さらに、送受信タイミングに微小なシフトを与えることで、干渉の重なりを抑える設計としています。
この方式により、HAPSシステム同士において支配的な干渉となるビーム間干渉の低減が可能となり、フル帯域の利用を維持したままスループット改善が確認されました。
ここでのポイントは、
 複雑な最適化に頼らず、フレーム構造の工夫によって干渉を抑制している
点にあります。

HAPSシステム間のビーム間干渉を抑制可能な反転同期TDD方式

今回の提案が示す位置づけ
本研究のアプローチは、今回のVTCにおけるHAPS/NTN研究の流れとも整合しています。
前章で述べた通り、現在の研究は

  • 伝搬・チャネルモデルの高度化
  • 実装・実証を意識した検討の進展

という方向にあります。
その中で本提案は、

  • HAPS特有の伝搬環境を前提とした設計
  • SWaP制約下で成立する現実的な方式の提示

という点で位置づけることができます。
言い換えると、理論的に最適な方式の追求ではなく、「現実に実装できる解」を提示する試みであり、現在の研究潮流と整合したアプローチと考えられます。本研究で扱うような実装可能性を考慮した干渉制御は、今後のNTNの標準化議論における重要な検討要素になると考えられます。

講演の様子

参加者との議論から見えたHAPSのこれから

今回のVTCでの議論を通じて、HAPSの研究が確実に次の段階に進みつつあることを実感しました。
実は筆者は2025年10月にも国際会議ISAPに参加しており、その際にも参加者との議論を通じて、HAPSの「現在地」と「将来像」について整理しています。詳細は[2]の記事をご覧ください。

当時は、HAPSが技術的に成立するかどうかが主な関心でしたが、約8か月が経過した今回のVTCでは、議論の焦点が明確に変化していました。
具体的には、

  • 現実的なチャネル環境を前提とした評価
  • 実運用を見据えたシステム設計
  • 実装可能な方式の検討

といった、「現実に使えるか」を重視した議論が中心となっていました。
この流れは、本会議で見られた

  • 伝搬モデルの高度化
  • 実装・実証志向の強まり

とも一致しています。
その中で本研究の提案も、「現実に実装できる形で干渉を抑制する」という観点で、この潮流と整合するものと位置づけられます。
HAPSは現在、
 「成立可能性の検証」から「実用化に向けた設計」へ
とフェーズが移行しつつある過渡期にあると感じました。

学会発表を終えての感想

HAPS/NTNに関する発表が複数見られ、これらが引き続き重要なテーマであることを実感しました。特に今回は、シミュレーションだけでなく実証や実装を意識した議論が増えており、分野全体が実用化に向けた過渡期にあると感じました。
私はNTNの研究開発に長年従事してきましたが、今回の発表を通じて、自身の専門性を活かしながらHAPSの干渉制御やシステム設計に関する議論をリードできている手応えを改めて感じました。今後も学会参加を通じて幅広い知見を取り入れ、より実用化に近い視点で研究開発に取り組んでいきたいと考えています。

おわりに

VTC2026-Springは、HAPS/NTNが「成立可能性の検証」から「実用化に向けた設計」へと移行しつつある局面を象徴する場でした。特に、伝搬モデルの高度化や実装・実証を意識した研究が進んでおり、「現実的なチャネル環境」と「現実に実装できる解」を前提とした議論が主流になりつつあると感じました。
私たちは、こうした流れを踏まえつつ、HAPS特有の干渉構造を前提とした設計指針や、限られたSWaP制約下でも成立するシステム構成の検討を進め、技術課題の解決に取り組んでいきます。
ドコモでは、若手の段階からこうした国際会議での発表や議論に挑戦できる機会があり、研究を通じて成長できる環境が整っています。今後も学会活動を通じて得られた知見を活かしながら、将来のネットワーク像の実現に貢献していきます。

謝辞
発表した論文は、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT(エヌアイシーティー))の委託研究(JPJ012368C07702)によって実施しています。

参考文献・関連リンク

[1] events.vtsociety.org

[2] nttdocomo-developers.jp