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メタサーフェスで無線中継は進化する?ミリ波MIMOの最新研究を解説【IEEE VTC 2026-Spring】

こんにちは.6Gテック部・無線アクセス技術担当の毛利です.

6月に開催された国際会議「IEEE VTC 2026-Spring」にて6G無線技術に関する研究発表を行いましたので[1],本記事ではこちらについてご紹介します.

【本記事でわかること】

  • 国際会議VTC 2026-Springとは何か
  • ドコモの6G技術コンセプト「NRNT」とは何か
  • メタサーフェスとは何か.どのように役立つのか

【目次】

国際会議「VTC 2026-Spring」とは

世界最大の電気・情報工学の学会であるIEEE(Institute of Electrical and Electronics Engineers)の傘下組織「Vehicular Technology Society(VTS)」[2] が主催する,移動通信・車両技術分野で最も権威のある国際会議の一つです.

毎年2回(春・秋)に開催されており,今回のVTC 2026-Springではフランス・ニース市内のコンベンションセンター「OcéaNice」にて6月9日(火)~ 12日(金)の計4日間開催されました.投稿論文件数1217件,採択論文650件 [3](採択率=約53.4%)となっており,非常に盛況です.

Fig.1 VTC 2026-Spring 発表会場(nicea).メイン会場であるniceaと9つの小会場で平行して複数の発表が行われた

今回のVTCでは,ドコモが掲げる6G技術コンセプトの一つである「NRNT(New Radio Network Topology)」について発表を行いました.

NRNT(New Radio Network Topology)とは

昨年に投稿したブログ記事とも一部重複しますが,NRNTについて簡単にご紹介します.

※参考記事 nttdocomo-developers.jp

2020年以降,ドコモの第5世代移動通信(5G)では従来より非常に高い周波数であるミリ波(ドコモ帯域は 27,400 MHz から27,800 MHz)が導入されました.ミリ波は他周波数帯と比較して非常に広い帯域幅(国内事業者それぞれに 400 MHz幅)を持つことから高い最大スループットを誇りますが,自由空間損失や遮蔽損失といった電波伝搬減衰が非常に大きいというエリア展開をする上での弱点があります.

そこで,NTTドコモは6Gの技術コンセプトのひとつとして,従来のように互いの基地局エリアを重複させずにエリアを展開するセルラートポロジーではなく,あえて複数のセルのエリアを重複させ見通し環境を増やしパス選択の余地を多くする「NRNT(New Radio Network Topology)」を掲げています [4].NRNTのメリットとして,見通しを確保することで損失の大きいミリ波のエリアを展開しやすくなることが挙げられます.

Fig.2 NRNT(New Radio Network Topology)

また,NRNTで簡易に複数のセルを形成するために,従来の基地局アンテナとはさまざまなデバイス,たとえば基地局アンテナから到来した電波を受信・増幅・再放射する「無線中継器」や電子的な素子を配置することで任意に設計した方向に電波を反射・透過できる「メタサーフェス」,さらに反射・透過方向を電子的に制御できるようにした「RIS(Reconfigurable Intelligent Surface)」,曲げや放射片によって任意の位置から電波放射が可能な「誘電体導波路」などについて検討を行っています.[5][6][7] また,互いに重複しているセル間の干渉を回避し,逆にMIMO(後述)を活かすためのビーム制御方法についても検討しています.[8]

Fig.3 NRNTの世界観と検討しているデバイス

今回の発表の概要

今回のVTCでは,本記事のタイトルのとおり「メタサーフェスを活用した2x2-MIMO対応無線中継」について発表しました.「無線中継器」「メタサーフェス」はすでに述べましたが「MIMO」とは何でしょうか.

6Gの重要なミッションとして通信の大容量化があります.通信容量は,ダウンロード速度といったユーザー体感に直結し,数ある移動通信の性能指標の中でも非常に重要な項目です.NTTドコモは6Gの要求条件の一つに「5Gに100倍の容量」を掲げています[5].一方,MIMO(Multi Input Multi Output)とは,1990年代に提唱された複数のアンテナと複数の無線経路を用いて同一周波数・同一空間で異なる複数の信号を多重して伝送することで通信を大容量化する技術です[9].MIMOは第4世代移動通信(4G/LTE,2010年~)で導入されていますが,より多くのアンテナ・無線経路を活用できればより多くの情報を伝送できるという大きな可能性を持っており,2026年現在においても積極的な研究開発が行われています.

無線中継器は遠方や建物の裏といった基地局アンテナからは電波が届かない場所を容易にエリア化できるという点で非常に有用です.一方で,中継器はMIMOに必要な複数の無線経路(専門的には「MIMOランク」)をひとつに束ねてしまうという短所もあります.

そこで今回の発表では,下図のようにひとつのエリアで複数の無線中継系を並べて基地局と端末の間の無線経路を複数確保することで基地局と端末の間のMIMO伝送ができるようにした,「MIMO対応無線中継器」を提案しています.

Fig.4 2×2-MIMO対応無線中継器

しかし実は,ミリ波のように見通し以外の無線経路が少ない高周波数帯では,この構成においては中継器どうしの間隔と端末の相対的な位置関係によってMIMO伝送ができない場合が多々あります.実際,簡単なシミュレーションでMIMOの度合い(専門的にはチャネル行列の第1特異値と第2特異値の比)を求めるとFig.5 のようになります.周期的にMIMOが使えないところ(グラフで色が極端に青くなっているところ)があるのが確認できます.

Fig.5 メタサーフェスなしの場合のチャネル行列の第1特異値と第2特異値の比

先ほど「中継器どうしの間隔と端末の相対的な位置関係によってMIMO伝送ができない」と書きましたが,逆に言えば端末の位置に応じて中継器どうしの間隔を変化させることができれば端末がどの位置にあってもMIMO伝送が可能です.しかし,数ミリ秒の間隔でユーザーの切り替えを行う移動通信において機械的に中継器どうしの間隔を変化させることは容易ではありません.

そこで,下図のように電波の反射方向を制御できるメタサーフェスを中継器の2次放射器として用いる構成を提案しました.5Gのミリ波ではその大きい自由空間損失を補うために「ビームフォーミング」という電子的に電波の放射方向を制御する技術が規定されていますが,中継器側でビームフォーミングを行いメタサーフェス上の反射点を制御することで,端末位置に応じて中継器どうしの間隔を等価的に変化させることができます

Fig.6 メタサーフェスを2次放射器として用いた2×2-MIMO対応無線中継器

提案構成を用いてFig.5 と同様のシミュレーションを行うと,Fig.7 のようになります.Fig.6 の結果と比較すると,どの場所も満遍なくMIMOが利用できることがわかります.

Fig.7 提案構成(メタサーフェスありの場合)におけるチャネル行列の第1特異値と第2特異値の比

発表・学会の様子

今回の発表では,提案構成におけるメタサーフェスの詳細な設計方法やビーム制御方法,シミュレーションによる提案構成の効果について発表を行いました.

現地での口頭発表を予定していましたが,実は国際会議開催の直前にVTCの意向により発表セッション自体がバーチャル発表(web上で発表を録画した動画を投稿し,質疑は文章コメントで行う形式)で変更となりました.顔が見えないバーチャル発表では,やはり聴講者の反応がわかりづらいという印象はあります.

Fig.8 バーチャル発表の様子

一方,交流セッションでは世界各国から集まる研究者のみなさまと交流を図ることができました.このような交流セッションは国際会議ではしばしば実施されます.今回のVTCは屋外で,夏至が近く各種セッション終了後もまだ日の高い,地中海性気候の爽やかな風の中で行われました.

Fig.9 交流セッションの様子.ニース市全体を一望できることで有名な ”Colline du Château(城の丘)” をバックにしている

おわりに

今回はNRNTにおける無線中継器,メタサーフェス,MIMO,ビームフォーミングといったさまざまな技術を組合せた提案について発表を行いました.ミリ波の活用は世界各国の移動通信における課題となっており,メタサーフェスに関する発表も多く,研究者どうしで互いに意見交流できたことは貴重に思います.

引用文献・参考リンク

  1. D. Mohri, K. Sato, T. Sasaki, Y. Shirasawa, S. Suyama, D. Murayama, S. Shoko, T. Fukushima, Y. Chang, and H. Jiang, “Fluid Antenna System Combining Metasurfaces and Beamforming Antennas for Two by Two LOS-MIMO Mobile Communication Systems,” IEEE VTC2026-Spring, June 2026.
  2. IEEE Vehicular Technology Society, https://vtsociety.org/
  3. IEEE VTS, "2026 IEEE 103rd Vehicular Technology Conference Final Program," p.5, 9-12 Jun. 2026, https://events.vtsociety.org/vtc2026-spring/wp-content/uploads/sites/47/2026/06/vtc2026spring_final-program.pdf
  4. OcéaNice, https://www.oceanice-congres.com/
  5. NTTドコモ, "ホワイトペーパー 5Gの高度化と6G," 第5.0版, 2022年11月, https://www.docomo.ne.jp/binary/pdf/corporate/technology/whitepaper_6g/DOCOMO_6G_White_PaperJP_20221116.pdf
  6. 村山, 芝田, 中平, 小川, 後藤, 蒋, 須山, 丸田, "複数の中継局を含む複雑ネットワークの高速な設計制御技術," 信学総大, B-5A-11, 2024年3月5日.
  7. T. Yoneda et al., "Massive Metasurface-Assisted Multidirectional Beam Shaping: Prototyping and Outdoor Experimental Results in Millimeter-Wave Band," in IEEE Access, vol. 14, pp. 11942-11952, 2026, doi: 10.1109/ACCESS.2026.3653453.
  8. D. Kitayama, D. Kurita, K. Miyachi, Y. Kishiyama, S. Itoh and T. Tachizawa, "5G Radio Access Experiments on Coverage Expansion Using Metasurface Reflector at 28 GHz," 2019 IEEE Asia-Pacific Microwave Conference (APMC), Singapore, 2019, pp. 435-437, doi: 10.1109/APMC46564.2019.9038267.
  9. D. Mohri, S. Suyama, Y. Chang, and H. Jiang, “Hybrid Beamforming Algorithm with Null Steering for RIS-empowered 6G System,” IEEE VTC2025-Spring, June 2025.