はじめに
こんにちは!R&D戦略部社会実装推進担当の萩森です。 ドコモR&Dは、大阪・関西万博にて2025年4月23日と9月19日の2日間行われた「けいはんな万博 in 夢洲」に、実際の扉を用いてリアル空間とバーチャル空間を自然につなぐMR技術(以下、本技術)を展示しました。本記事では主に2回目の9月19日の展示の様子や1回目と比較した2つの変更点をご紹介し、2度の体験展示を終えたまとめをお話しします。 1回目の展示や技術詳説はこちら.
「けいはんな万博 in 夢洲」とは
「けいはんな万博 in 夢洲」は大阪・関西万博会場の大阪ヘルスケアパビリオン内リボーンステージにて4月23日と9月19日に開催された技術体験イベントです *1。 けいはんなに立地する企業・研究機関によるワークショップやけいはんな発の技術を体験できるブースが設けられました。 ドコモの展示は、本技術の共同研究先であるけいはんな学研都市にある国立大学法人奈良先端科学技術大学院大学(以下、NAIST)との共催で実現しました。
*1 けいはんな万博は、「未来社会への貢献〜次世代への解〜」をテーマに、けいはんなで2025大阪・関西万博と同時に開催される万博です。keihannaexpo.org


MR技術を使った扉をくぐってバーチャル旅行しよう!
ブースに設置された実際の扉を開けてくぐることで「バーチャル旅行」へ出かけるという体験を来場者のみなさまに提供しました。旅行先は以下の3つのテーマを用意し、大阪・関西万博は多くの外国人も来場するため、アプリの英語・中国語のシステム対応も行いました。 最初のテーマ「室内」は、ジャズの流れる空間で、足元にネズミが駆け寄ってくるサプライズがあります。二つ目のテーマ「観光地」は、和楽器の音色とともに日本家屋から鷹が飛び立つ瞬間に出会います。そして三つ目のテーマ「宇宙」は、宇宙ステーションの細い通路を落ちないように慎重に歩いて進むというものです。

目の前の扉を開けたら、そこは別空間
本技術は、ヘッドマウントディスプレイを使った複合現実技術(MR: Mixed Reality)によって、任意の実際の扉を用いてリアル空間とバーチャル空間を自然につなぐ技術です。 NAISTが発見した科学的な知見をもとに、ドコモが手と扉の動きを動的に認識する技術を新たに開発することで、簡単にユーザー体験向上の恩恵が得られるシステムとして本技術は実現しました。 任意の扉、任意のバーチャル空間を組み合わせて利用できるため、本技術は高い応用性を持ちます。
変更点1:扉開度に連動する音の大きさ制御の導入
実際の扉を開ける際、扉の向こう側で鳴っている音は扉を開けていくにつれて徐々に大きくなっていきます。 この扉の開度に応じて音の大きさを変化させると、「まるで別空間に入り込んだような感覚」がさらに高められると考えられます。 そこで、9月19日の2回目の体験展示ではこの機能を新たに導入しました。 この機能が人に与える効果はNAISTとともに実施した研究に基づいています *2。
*2 萩森 大貴,平尾 悠太朗,ペルスキアエルナンデス モニカ,山田 祐樹,内山 英昭,頭川 裕紀,清川 清.物理ドアを用いた実環境とバーチャル環境のマルチモーダル遷移における音と振動の漏れ出し効果がユーザ体験に与える影響.第30回日本バーチャルリアリティ学会,2E2-11,大阪,2025.

変更点2:特定の画像で扉を認識する方式の採用
指で触れて扉を認識する標準方式 (4/23版)
実際の扉の隅を指先で2箇所選択することでその扉の存在を認識し、バーチャル空間への移動を可能とします。 扉への特別な準備が必要ないため、任意の扉を使える利点があります。 一方で、ヘッドマウントディスプレイはカメラなどのさまざまなセンサを用いて指先を認識します。 しかし、これらのセンサは光の当たり方の変化に弱く、屋内では問題ないのに対して屋外の展示ブースではうまく指先を認識できない問題がありました。


特定の画像で扉を認識する特別方式 (9/19版)
実際の扉にマークなどの画像を張り付けてその画像を認識することで扉の存在を認識します。 前述の方式と比較して、画像を準備する必要があり利便性が少し低下します。 しかし、画像の認識は複雑な形状の人の手の認識と異なり比較的確度高くその存在を認識できるため、屋外の展示ではこちらの方式が望ましいと考えられました。 そこで、9月19日の2回目の体験展示ではこの方式を採用することで、扉の認識に失敗する事象を大幅に削減しました。

体験展示を終えて
2025年4月23日のけいはんな万博 in 夢洲での来場者数は約2,000人であったのに対して、2025年9月19日の2回目では約3,000人にお越しいただきました。 ドコモのブースには9月19日の2回目では約100人の方々に体験いただきました。 来場者の方々からは、「これを体験するために来た」や「これが万博で一番面白かった」などの前向きな評価や反応をいただきました。 開発者である我々は普段からこういった体験に慣れてしまっているため、ありのままで素直な感想を忘れがちです。 しかし、こういった体験展示では多くの生きたフィードバックが得られるため、本技術の広い可能性を確認できました。

おわりに
本技術は、観光・不動産・エンターテインメントの分野などへの応用をめざしています。 また本技術のユーザー体験向上効果は学術的な知見に基づいてその有用性が認められています。 さらに本体験展示を通じて一般の方からも前向きな評価をいただいています。 ドコモは本技術を組み合わせることで新しい体験を提供できるMRアプリケーションを探しています。 本技術にご興味がある方はぜひご連絡ください。
R&D戦略部 社会実装推進担当
social_innovation-press@ml.nttdocomo.com