NTTドコモR&Dの技術ブログです。

NTTドコモグループ「Vibe Coding 大会」開催レポート〜コードを書かずにアイデアを形に〜

はじめに

こんにちは。NTT ドコモの門間、鶴岡、河面です。本記事は、私たちが NTT ドコモグループ社員を対象に企画・運営した「Vibe Coding Day」の開催レポートです。

2025年6月25日、Vibe Coding によるアイデアとバイブスのみでプロダクトを作る「Vibe Coding Day」を、docomo R&D OPEN LAB ODAIBA にて開催しました。本ラボは NTT ドコモが運営するイベントスペースで、機材や設備も充実しており100名規模の収容も可能な場所となっています。社外の方も一定の条件(NTT ドコモグループ社員の運営関与)をクリアし、申請・承認されれば無償でご利用いただけます。

本イベントはドコモグループ内のさまざまな部署・子会社から総勢約70名(管理職8名含む)の応募をいただき、「コードを書かずにアイデアを形にする」という Vibe Coding による開発を体験していただきました。

単なる「生成 AI すごい」で終わるのではなく、自ら手を動かして生成 AI を活用したソフトウェア開発のパラダイムシフトを体験し、ドコモグループのソフトウェア開発文化の変革のきっかけを得ることを目的として開催しました。

Vibe Coding: コードから「意図」へのパラダイムシフト

「Vibe Coding(バイブコーディング)」とは、元 OpenAI 共同創業者で元 Tesla の AI ディレクターである Andrej Karpathy 氏が2025年2月に提唱した開発スタイルです。このアプローチは「雰囲気(Vibe)に身を任せ、コードが存在することすら忘れてしまう」という、従来の開発手法とは一線を画す開発方法を指します。コードを読まず、厳密なプログラミング知識がなくても、雰囲気や意図を伝えることでコードを生成できるため、非エンジニアでもソフトウェアを開発できるようになったと言われています。

Vibe Codingの特徴

  • 徹底した LLM 活用: 大規模言語モデルを全面的に活用し、音声入力ツールなどを通じて指示を出し、ほとんどキーボードに触らず開発を進める
  • 非コード志向: コードの変更点(diff)の確認やエラー修正も AI に任せ、開発者自身がコードを読まない
  • 意図と結果の重視: 実装の詳細よりも「何を作りたいか」という意図と「どんな結果が得られたか」に集中する
  • AI との対話型開発: 問題が生じたら詳細な技術的解決策ではなく「こういう問題が起きている」と説明し、AI に解決させる

AI-assisted Codingとの決定的な違い

Vibe Coding は従来の「AI-assisted Coding(AI によるコーディング支援)」とは一線を画すものです。AI-assisted Coding がコードを書く作業を AI から補助してもらうのに対し、Vibe Coding では「生成されたコードの中身を気にせず AI へコード生成を任せる」という点で、開発者と AI の主従関係の逆転が起きています。いわゆる「ドライバー席を AI に譲る」開発手法とも言われています。

このアプローチは、特にソフトウェア開発の初心者や非エンジニアにとって、技術的な壁を大きく下げる可能性を秘めていると思います。一方で、AI に具体的な指示を与える能力や、要件を明確に言語化するスキル「ディレクション力」がより重要になるという側面もあります。

開催の背景と目的

以下、なぜドコモグループで Vibe Coding イベントを開催したのか、その背景と目的について記載します。

企画のきっかけと背景

きっかけは、ベンチャーキャピタルの投資家たちが週末に渋谷へ集結し Vibe Coding でプロダクトを作った VCVC in Shibuya というイベントです。非エンジニアのベンチャーキャピタリストが90名集まり盛況であった様子から、ドコモでも同様のイベントを開催をしたら面白いかもしれないと運営で会話をしていました。また、世間では、メルペイのコーディング禁止令GMOペパボ社による Vibe Coding 研修の実施 など、Vibe Coding の注目度が高まっていたことも理由にあげられます。

イベントのコンセプトとゴール

イベントのコンセプトは「コードは書かない(禁止)! アイデアとバイブスでプロダクト開発!」です。参加者には以下の体験を提供することを目指しました。

  1. コードを書かずにプロダクトを作る体験
  2. 自身のアイデアを形にする体験
  3. Coding Agent の進化・ケイパビリティを体験

特に重視したのは、これまでプログラミングの経験がないあるいはプロダクトを作ったことがない人でも、生成 AI の力を借りて開発できることを示す点でした。世の中のテックベンチャーとは異なり、ドコモグループには「これまで開発したことがない社員」も多く、そういった方々にもプロダクト開発の体験やきっかけを提供する機会にしたかったことが理由です。また、今後の開発手法が大きく変わるこのタイミングでそのケイパビリティを知り、ドコモグループでも取り入れるきっかけとなることを期待しました。

ドコモ社員とディレクション力

イベント開催の背景には、生成 AI がもたらすソフトウェア開発の逆転現象への期待があります。生成 AI の力によって「何を・なぜ作るか」という要件定義、アーキテクチャ設計、システム全体の構造化の役割がより重要になっていると言えます。「コードを書く」時代から「意図を伝える」時代への変化に対応するため、複雑な要件を言語化し、AI に構造的に指示を出す能力、つまり「ディレクション力」が重要になります。

ドコモグループにはコーディングの経験がある社員は少ないですが「要件定義」「ディレクション力」が高い社員は多い傾向にあり、生成 AI によるプロダクト開発との相性が良いと考えています。今回のイベントが、ドコモグループ全体で生成 AI を使いこなす人材育成のきっかけになればと思い企画しました。

タイムテーブル

イベント本編の前半は座学セッション、後半は Vibe Coding でのハンズオンという構成としました。ただ説明を聞いても生成 AI で出来ることや凄さは肌感覚ではわからないため、自分で手を動かす時間を多めにとる構成としました。また本編後は、様々な会社や部署から集まっていただいた貴重な機会であり、アフタートーク(懇親会)で部を跨いだ交流をしました。

時間 内容 概要
13:00 オープニング / Vibe Codingとは イベントの開会を宣言し、Vibe Codingのコンセプトや目的、ドコモグループでの実施理由について説明。「コードを書かない(禁止)! アイデアとバイブスでプロダクト開発!」というコンセプトを強調。
13:15 今日から使える! Vibe Codingでも活用できるクラウド共通基盤 ドコモグループ全体に提供されているクラウド共通基盤について説明。現在16個のサービスが提供され、90,000ユーザー以上が利用している基盤から、Vibe Codingに活用できるツールを紹介。
13:25 Vibe Coding実践・デモ 社内でのVibe Coding利用例の紹介。Vibe Codingの「型」として事前調査・計画・実装のフレームワークを紹介し、実際の開発プロセスを例示。デモセッションではGemini Canvasを用いたアプリ開発を実演。
14:00 初心者向けVibe Coding講座 / Vibe Codingハンズオン 参加者は自身のスキルレベルに合わせてVibe Codingを実践。初心者向けにはGemini Canvasの使用を推奨し、環境構築や使い方の説明を実施。参加者はそれぞれ自由にプロダクト開発に着手。
16:00 発表会 参加者の成果発表。約20名の各発表者がアプリの紹介、成功・失敗体験、工夫点などを共有。
17:00 クロージングとアフタートーク イベント締めくくりと参加者への感謝。発表会での投票結果発表と受賞者への景品贈呈。その後、懇親会で参加者同士の交流。

Vibe Codingのルール

今回のイベントでは、以下のルールを設定しました。

開発に関するルール

  • 小さな修正でもコードを書くことは禁止
    • 小さな修正でも工夫して AI に修正させること
  • 開発するプロダクトに指定ははなし
  • 利用する LLM やツールの指定はなし
    • 初心者は Gemini Canvas 推奨
    • 講座にて取り扱い、プレビュー機能あり(後述)

参加形式とセキュリティ

  • 個人制での開発
    • チーム制ではなく個人制。自分で手を動かすことを意識すること
  • 管理情報の取り扱い
    • プライベート利用のツールに管理情報は入れないこと

これらのルールにより、参加者は生成 AI の力を最大限活用しながらセキュリティにも配慮しつつ Vibe Coding を体験していただきました。

Gemini Canvasを利用した初心者向けVibe Coding講座

今回のイベントでは、特に初心者の参加者に向けて Gemini Canvas の利用を推奨しました。Gemini Canvas は Gemini アプリに搭載されている機能で、テキストやコードの作成・編集・共有をリアルタイムで AI と共同作業できるインタラクティブなスペースです。Gemini アプリはブラウザで利用できるため、従来のプログラミング開発で最初の大きな壁となる環境構築が不要です。ブラウザだけで即座に Vibe Coding を始められるため非エンジニアにも使いやすいツールで、本イベントの進行に最適なツールでした。また、後述の弊社 CCoE チームが提供するクラウド共通基盤により、Google Workspace の Gemini アプリを社内セキュリティ基準を満たす形で利用できた点も選択理由です。

Gemini アプリにアクセスするだけで、すぐに AI との対話を通じたプロダクト開発を開始できます。「アプリを作りたい」という意図を伝えるだけで、AI が自動的に開発に必要な技術スタックを選択し必要なコードを生成してくれます。

以下の例はディレクション要素が含まれていない単なる「テトリス作って」という指示ですが、この程度の指示でも比較的忠実に要求に近い出力を実現してくれます。Canvas ボタンを押下する(あるいは自動で検知)ことで、HTML・CSS・JavaScript のブラウザで動作するアプリケーションを作成してくれます。

Gemini Canvasでテトリスゲームを作成している様子

実際に、多くの初心者の参加者が Gemini Canvas を使用して、1~2時間という短時間で実用的なアプリケーションを完成させることができました。これは従来の学習曲線を考えると驚くべきスピードであり、Vibe Coding と Gemini Canvas の組み合わせがいかに学習障壁を下げるかを示しています。

プレビュー機能の威力

また、Gemini Canvas の最大の特徴の1つが プレビュー機能 です。この機能により、参加者は AI が生成したコードの実行結果を即座に確認でき、フィードバックを受けながら開発を進めることができました。Canvas はその環境に閉じていくつかの Google サービス (Gemini や Firebase) をバックエンドとして利用可能で、AI を使って AI を含むアプリケーションを作成できるため初心者でもある程度の機能を盛り込むことができます。

従来の開発では「コードを書く → 保存する → 実行する → 結果を確認する」というサイクルを繰り返す必要がありましたが、Gemini Canvas では AI がコードを生成すると同時に、その場でアプリケーションの動作を確認できます。これにより、「思った通りに動いているか」「期待していた見た目になっているか」を瞬時に判断し、 AI に修正指示を出すことが容易になりました。

以下は前述のテトリスゲームのアプリケーションをプレビュー表示した画面です。もちろん、実際にゲームとして遊ぶこともできます。

Gemini Canvasのプレビュー機能

ドコモグループでの利用しやすさ(クラウド共通基盤)

ドコモグループはサービスイノベーション部の CCoE チームによってクラウド共通基盤という、セキュリティなどの会社ルールに則ったクラウドが提供されています。Gemini アプリが含まれる Google Workspace もこの共通基盤の一部であり、アカウントを持つ社員であれば追加の申請や料金負担なしで Gemini を利用開始できました。「使ってみたいが申請が面倒」「コストが心配」といった導入障壁が少なく、参加者は気軽に Vibe Coding を体験できました。クラウド共通基盤では Google Workspace 以外に GitHub Copilot も提供されており、エンジニア経験のある参加者は GitHub Copilot も自由に選択できるようにしました。

本イベントでは管理情報を一切扱わないというルールの元でツールの制限は設けませんでしたが、推奨ツールとして上記を指定しました。 参考程度ですが、下記は検討工程で比較した主要なツールです。参加者スキルをイメージし運営メンバーで使用感を確かめながら選定しました。

上級者: プライベートツールも自由に利用

  • Claude Code, Cursor etc…

中級者: GitHub Enterprise 利用可能、ツールやLLM モデルにこだわりなし

  • VS Code + GitHub Copilot(プレミアム申請版または無料版)

初心者: 環境構築不要でアカウント作成から始められる

  • バックエンドも含む開発向け
    • Bolt.new, Firebase Studio, Google AI Studio Build, Google Jules etc…
  • SPA(HTML/CSS/JavaScript)開発向け
    • Gemini Canvas, v0, Claude Artifact etc…

参加者は各自のスキルや開発したいプロジェクトの内容に応じて、これらのツールを自由に組み合わせて開発していただきました。

成果物

発表は挙手制で行われ、参加者からは様々なアイデアが形になったアプリケーションが共有されました。全くアプリ作成の経験がない人でも、短期間で作ったものを発表できる程度に一人で作り上げることができていました。

優秀賞を受賞したプロダクト

20名を超える発表者の中から、参加者投票により選ばれた優秀賞受賞のプロジェクトをご紹介します。

同率1位: 「空き時間見つけるくん」

「空き時間見つけるくん」は Google カレンダーや社内のスケジュールから空き時間を特定し、それを他の人と共有しやすいテキスト形式で自動生成するツールです。ドコモには法人向けのカレンダーがオンプレで管理されており、社外向けの Google カレンダーと併用して使っている社員も多いです。「予定を調整する時にいちいちカレンダーを見ながら空き時間を探すのが面倒」という日常的な課題を解決するアプリで、すぐに業務に活用できる実用性の高さが評価されました。

実装では普段書いていない Swift という言語を用いて Vibe Coding に挑戦し、アプリケーションを開発しました。これは、AI を活用することで普段馴染みのない技術スタックでもアイデアを形にできるという Vibe Coding の可能性を具体的に示した例と言えます。

アプリケーションの機能は、Google サインイン、自分のイベントの表示、空き時間の検出(例: 17時から18時まで空いているなど)、ユーザーが選択した空き時間のコピー可能なテキスト生成など、意図を伝えるだけで AI がコードを生成、動作するプロトタイプを作成するという本イベントの目的を忠実に再現した形となっていました。

同率1位: 「私の娘を探しています」

「私の娘を探しています」は、集合写真の中から自身の娘の居場所を特定するという、自身の日常生活における具体的な課題解決を目指したプロダクトです。Gemini Canvas を開発ツールとして活用し、写真内の人物を囲む人物検出機能はわずか1分程度で実装できるという、生成 AI を活用した開発の爆速ぶりを実証しました。

一方で、特定の人物(娘)を識別するために Face API を組み込もうとしましたが、エラーに直面し1時間以上もの試行錯誤の末に挫折したという、AI のエラー解析や出力の限界に直面した体験を赤裸々に共有しました。「AI からの応答が必ずしも期待通りではなく、どう修正指示を出すべきか試行錯誤した」と語り、Vibe Coding の限界と可能性の両方を示した点が高く評価されました。

この過程で、「娘が写っているか判断するアプリを作ってほしい」とプロンプトを入力した際、Gemini が「私は AI であり家族を持つことはできません。そのため私の娘さんがこの写真に写っているかどうかという判断はできません」と応答した話は会場の笑いを生むと同時に、AI との協働における予期せぬ応答や現在の限界を参加者に具体的に伝える形となりました。この一連の工程を通じて Coding Agent の「ケイパビリティを体験」するという本イベントの目的も達成できていたのではないかと思います。

3位: 「Claude Code君が考える世界で一番おもしろいゲームと、その本音作業ログ」

本プロダクトは「世界で一番おもしろいゲームを作ってほしい」という壮大な問いを Claude Code に投げかけ、その過程を AI 自身の「本音作業ログ」として記録させるという、極めてユニークな発想から生まれました。

開発にあたり最初に Gemini にも同じ指示を与えて比較しましたが、Gemini が「Cookie クリッカーの劣化版のようなゲーム」しか作れなかったため、このタスクにおいては Claude Code が最適だと判断し選択したそうです。特定の複雑なクリエイティブタスクにおいて、AI ツールの選択も重要であったことを示唆しています。

具体的には Claude Code に開発者はその中身を絶対に見ないという条件の元で「本音の感想」を含む作業ログを Markdown ファイルに記録させるという、前代未聞の指示をしました。Claude Code は約20分かけて最初のゲーム「Dimensional Drift」を開発しましたが、開発者が「ぶっちゃけわけわかんない」と正直なフィードバックを伝えると、AI はショックを受けた様子で可愛く反応を返したそうです。その後、Claude Code は自ら問題を分析し、「チュートリアルを用意していなかったのが良くなかった」と判断。移動練習やアイテム収集ができるチュートリアルを備えた V2 を開発しました。

しかし、チュートリアルは追加されたものの、ゲーム自体の分かりにくさは根本的には解決されなかったとのことです。この結果は、生成 AI の自己改善能力の現状と、人間による「ディレクション力」の重要性を示すものでした。発表者は「AI へ自由に創造させることで、人間では思いつかなかったアイデアを生む可能性がある」点についても言及し、Vibe Coding の新たな一面を紹介しました。

その他の面白い発表

その他、特に印象的だった取り組みをいくつかご紹介します。

ユーザーを「中毒」にするゲーミフィケーションToDoアプリ

AI と相談しながら、ユーザーが「中毒になる」ようなゲーミフィケーション要素(ガチャ、デイリーチャレンジ、ランキングなど)を取り入れた ToDo アプリを2種作成しました。発表者は「タスク消化にゲーム性を持たせることでユーザーのモチベーション維持に役立てる」というコンセプトのもと、AI に具体的なゲーム要素を提案させながら開発を進めました。

特筆すべきは、「コードを全く理解せず『バイブス』に任せて開発した」という点で、まさに Vibe Coding の神髄を体現した事例でした。発表者は「AI に目的を明確に伝え、何度も対話を重ねることで、自分の思い描いた以上のものができあがった」と振り返りました。

同窓会にはいけません

右クリックで謝罪文を自動生成する Chrome 拡張機能を開発。その名も「同窓会にはいけません」という独創的なタイトルのこの拡張機能は、断りの言葉に悩む人々の助けとなることを目指したものです。

発表者は「断り文句を考えるのが苦手で、かといって同窓会への誘いを単純に断るのも失礼だと感じていた」という身近な課題からインスピレーションを得たと語りました。AI による効率化と自己防衛のユーモラスな活用事例として参加者の笑いを誘うとともに、日常の小さな悩みをテクノロジーで解決するというアプローチに共感の声が集まりました。

妻や旦那を不機嫌にさせない特訓アプリ

クイズ形式で夫婦間のすれ違いを解消するユニークなアプリを開発。夫婦それぞれに「相手が不機嫌になる行動」についてのクイズを出題し、互いの感じ方の差異を理解するというコンセプトです。

発表者はアプリ開発の過程で「要件定義の重要性を再認識するきっかけとなった」と語り、「AI に具体的な指示を出すためには、自分自身がアプリの目的とユーザー体験を明確にイメージしておく必要がある」という気づきを得たそうです。この発表は、日常生活の身近な課題解決にも Vibe Coding が活用できることを示す良い事例となりました。

発表された20件のプロダクト

どの発表も発想がユニークで面白く、1~2時間という短時間の実装で仕上げたとは思えない完成度でした。改めて Vibe Coding のパワーを感じさせられました。

アプリ名 概要
空き時間見つけるくん Googleカレンダーのスケジュールから、空いている時間帯をテキストとして抽出し、簡単に共有できるようにするツール
Excelで構成されたチェックリストを埋める AI活用プロジェクトにおける複雑なExcelチェックリストへの入力作業を自動化し、関連資料から情報を読み取って質問への回答を生成
私の娘を探しています 学校から送られてくる集合写真の中から、特定の人物(発表者の娘)を見つけることを目的としたアプリ。人物検出機能があり、写真比較による同一人物特定を試行
R&D施策分析支援ツール R&Dの施策管理において、Excelシートへの詳細な情報入力を自動化するツール。関連する資料から施策の新規性、進歩性、有用性、中計戦略との合致などの情報を抽出しExcelに出力
中毒タスクアプリ (Addictive To Do App) タスクを達成すると光る視覚効果や、ガチャ機能、デイリーチャレンジ、リーダーボードといった中毒性のある要素をAIが提案し、組み込んだタスク管理アプリ
カンバンボード(要件定義からClineにやらせた) カンバンボードの作成だけでなく、AI(Cline)に要件定義そのものを担当させたプロジェクト。顧客要望や前提条件に基づいてバックログを作成し、新しい要件の追加にも対応
同窓会にはいけません(心を守る断り文自動生成Chrome Extension) 誘い(例:同窓会)を断る際に、右クリック一つで丁寧な断り文を自動生成するChrome拡張機能。ユーザーの口調に合わせてカスタマイズ可能で、SlackやDiscordなどブラウザベースの様々なプラットフォームで利用可能
LLM自動日記作成ツール 日付、出来事の簡単な説明、画像などの入力に基づいて、AIが日記を自動生成するツール。文字数や文体を指定でき、生成された文章と画像をPDFとして出力可能
チームで楽しく! チームTodo掲示板 チーム内の膨大なタスクを楽しく管理することを目的としたTo Doアプリ。各メンバーがタスクを入力・管理でき、「私やる」「〜さんお願い」といった感情的な指示でのタスク割り当ても可能
AI料理研究家と会話をしながらレシピを考えよう ユーザーがAIの料理研究家と会話しながら、冷蔵庫にある食材などからレシピを考案してもらうアプリ。作成したレシピを保存する機能も装備
Slack絵文字作成ツール Slack用のカスタム絵文字を生成するツール。ランダムな画像を生成して絵文字に変換する機能があり、AIの指示出しに工夫が必要
ドコモDB検索君 社内のダミーデータ(LLMが生成)に対してユーザーが質問を投げかけ、そのデータに基づいてAIが回答を生成するツール。CSVデータやLLMを活用し、「ドコモらしい」ダミーデータの生成も可能
打鍵神 in Qiita Qiitaの記事タイトルをタイピング課題として使用するタイピングゲーム。タイピング能力の向上と、仕事への導入としての集中力向上を目的
妻や旦那を不機嫌にさせない特訓アプリ 夫婦間のコミュニケーションにおける「すれ違い」を解消するためのトレーニングアプリ。クイズ形式で、通常時と「理不尽」な状況での異性の考え方や対応を学び、フィードバックを取得
アイチャボ(Alliのチャットボット)ログの分析&改善提案 Alliのチャットボットのログを分析し、改善提案を行うアプリ。ユニークユーザー数や会話イベント数、質問ランキングなどを表示し、想定質問の提案やテスト入力機能を通じて業務効率化に貢献
Claude Code君が考える世界で一番おもしろいゲームと、その本音作業ログ Claude Codeに「世界で一番面白いゲーム」の作成を依頼し、その開発過程でAI自身が「本音の作業ログ」を生成。AIは「Dimensional Drift」というゲームを開発し、チュートリアル追加など自己改善を試行
NW現調計画・日報レポート代行くん ネットワーク現地調査の計画立案と日報レポート作成を支援するアプリ。マップ上にポイントを追加し、担当者や説明を割り当て、AIが内容を補強。調査ログから日報を自動生成する機能も特徴
カスタマージャーニーマップ生成ツール カスタマージャーニーマップを簡単に作成できるツール。ペルソナのイベント体験を時系列で可視化し、行動、タッチポイント、思考、感情などを表現。感情曲線はインタラクティブに操作可能で、AIによる代替案提案や「小説風デモ」生成機能も装備
QR名刺交換 QRコードを使って名刺情報を手軽に交換できるアプリ。氏名や会社名などの情報を入力するとQRコードが生成され、保存や画面表示が可能
画面録画から一括GIF生成ツール 画面録画を行い、それを自動でGIFアニメーションに変換するツール。資料へのGIF埋め込みを容易にし、自動再生や軽量化といったGIFの利点を活用。必要なツール(FFMPEG)の自動ダウンロード機能も装備

参加者の声

イベント後のアンケートや発表の場で、参加者からは以下のような声をいただきました。

「プログラミングが全くできなくても、アイデアだけでアプリが作れることに驚きました。これまではエンジニアに頼むしかなかったことが、自分でもできるようになる可能性を感じました」(営業部門・30代)

「AI の指示の出し方ひとつで、全く異なる結果になることを実感しました。要件定義の重要性を改めて認識しましたし、言葉で説明する力が今後ますます重要になると感じています」(企画部門・40代)

「コードを書かないことに最初は不安を感じましたが、AI との対話を重ねるうちに、本当に『バイブス』だけでプロダクトが完成していくのを目の当たりにして、開発の概念が変わりました。これまでのような詳細なコーディング知識よりも、全体像を設計する力が重要になってくると思います」(エンジニア・20代)

「新規事業のプロトタイピングに Vibe Coding を活用できそうだと感じました。アイデア段階からすぐに形にできるので、検証サイクルを短縮できます」(新規事業部門・30代)

「これまではちょっとしたツールを作るのにも時間がかかりましたが、Vibe Coding なら業務改善のためのツールをすぐに作れることが分かりました。明日から早速試してみたいと思います」(情報システム部門・40代)

Vibe Codingを通して得られた学びと課題

今回のイベントを通じて、様々な立場の方に Vibe Coding の可能性を体験いただくとともに、いくつかの課題も明らかになりました。以下に主な学びと課題をまとめます。

ディレクション力の重要性

イベントを通じて多くの参加者が指摘したのは、複雑な要件を言語化し、AI に指示を出す能力が極めて重要だという点です。実際に成功事例を共有した参加者の多くは、以下のようなアプローチを取っていました。

  • 要件定義書を AI に作らせてから実装に進む
  • ユーザーストーリーや使用シナリオを具体的に説明する
  • 開発の目的と解決したい問題を明確にする
  • 抽象的な指示ではなく具体的な例を示す

これらの知見は、「コードを書く」時代から「意図を伝える」時代への変化において、上流工程(要件定義、アーキテクチャ設計、システム全体の構造化)の役割が一層重要になることを示唆していると思います。

エラー解析と試行錯誤

AI の出力が常に安定しないことや、エラー発生時の原因特定、修正指示の難しさが課題として挙げられました。特に技術的な詳細を理解していない参加者は、エラーメッセージの意味を把握できず、AI に具体的な修正指示を出せないケースがありました。

この課題に対しては、「エラーメッセージをそのまま AI に渡して分析してもらう」「問題を簡単に言語化して別のアプローチを提案してもらう」といった工夫が効果的でした。AI と人間が協力して問題を解決する「行動も起こしながらやる」姿勢の重要性が認識され、Vibe Coding は AI との対話を通じた創造的なプロセスであることが明らかになりました。

開発速度の劇的向上

小さなアイデアを形にする速度が飛躍的に向上したという感想が多くありました。従来であれば数日かかるような開発が数時間で完了するケースもあり、参加者からは「アイデアを形にする障壁が大きく下がった」という感想を多くいただきました。

特にプロトタイピングのスピードが上がることで、「作りながら考える」というアジャイルな開発スタイルがより現実的になり、仮説検証のサイクルを素早く回すことが可能になります。これはビジネスアイデアの検証や新規事業の立ち上げ、社内の業務効率化ツール作成などに大きな影響を与える可能性があります。

AI の進化

GitHub Copilot の自己修正能力の向上など、AI エージェントの賢さが日々進化していることも実感されました。「昨年同じことを試みた時よりも格段に使いやすくなっている」という声もあり、技術の進歩の速さを改めて認識する機会にもなりました。

特に、同じ指示に対する AI の反応が、使用するモデルやツールによって大きく異なることが明らかになり、複数の選択肢を持つことの重要性も認識されました。参加者の中には「GitHub Copilot と並行して Claude も使ってみると、異なるアプローチの提案が得られて参考になった」と報告する人もいました。

イベントの様子はNotebookLMで振り返り

当日は本業が忙しかったり天気が悪かったりなどの理由で、応募はしていたが参加できなかった方が10名以上いました。完全オフライン開催で当日のオンライン配信はしなかったのですが、アーカイブ用の録画は残していたため音声データに変換し NotebookLM へまとめて展開しました。NotebookLM のソースに取り込める形式ですが、動画データは YouTube 公開されているもの以外は読み込めないため音声データに一度変換する必要がありました(FFmpeg で対応)。また、文字起こしだけでは参加者の名前や固有名詞の精度が悪かったため、参加者名簿や資料を一緒に読み込ませることで対策しました。

また、マインドマップ機能の相性が良く、下記のように成果物共有の各参加者ごとに綺麗に分解してくれるため「あの人の発表どんな内容だったっけ」の課題に対して、回答を受け取ることができます。該当の発表を押下すればそのままチャットが開始し、対話ができるため振り返りには非常に便利な機能です。

マインドマップ 発表内容のチャット例

先日の Google I/O'25での発表をNotebookLMにまとめて公開 していた事例は印象に残っており、カンファレンスやイベントの内容を NotebookLM に読み込ませて参加者以外にもキャッチアップを促せるのは便利です。

まとめ

Vibe Coding は世の中のエンジニア界隈ではホットな話題でしたが、ドコモグループにはコードレベルでの開発を生業としている社員は少なく、どこまで興味を持って参加していただけるかは未知数でした。蓋を開けてみれば、本業がある中50名以上の方に会場まで足を運んでいただき、エンジニア以外のロールの方にとっても注目されている領域だと改めて感じました。

ハンズオンでは普段コードを書かない参加者も多い中、各自が考えながら AI に指示を出して、時には思い通りにならずイライラしながらも試行錯誤している様子がありました。これはまさに自分で手を動かして触ってみて初めて実感できる体験だと思いますし、そういった機会を提供できたことは非常に良かったと思います。

結果、プログラミング未経験者でも1〜2時間で実用的なアプリケーションを完成させることもでき、参加者からは「アイデアを形にする障壁が大きく下がった」「新規事業のプロトタイピングに活用できそう」「業務改善ツールをすぐに作れる」といった前向きな声を多数いただき、各部署での実践的な活用に向けた動きも楽しみです。

本イベントは単発の体験で終わるものではなく、ドコモグループ全体の生成 AI によるソフトウェア開発文化変革の始まりだと思います。もっと言えば、NTT のようないわゆる JTC が AI 活用してソフトウェア開発文化を変えていくことで、日本国内におけるソフトウェア開発も変わっていくかもしれないですし、自分たちでソフトウェアを開発する文化がないエンタープライズ企業こそ AI を活用していくべきだと実感したイベントとなりました。


謝辞

イベント開催にあたり、企画・運営に携わった R&D 戦略部、経企 BD 室、SI 部 CCoE の皆様、そして積極的に参加し様々なアイデアを形にしてくださった参加者の皆様に心より感謝申し上げます。

本イベントにご参加いただいた皆様、ありがとうございました。またの機会にお会いしましょう!