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超簡単!Copilotエージェントを活用し、 業務知識を効率的に身につける仕組みをつくってみた

■はじめに

NTTドコモ 情報システム部の藤原明莉です。現在入社2年目でアプリ開発業務を担当しています。

今回、業務知識を効率的に身につけたい方、新人教育に課題を感じている方に向けて書いています。
本記事は、複雑なAI開発や高度なプログラミングを行うものではありません。既存のエージェント機能に、シンプルなルールを追加するだけで構築できる仕組みをご紹介します。すぐに取り組める方法で、業務効率化や新人教育の課題解決につながることを目的としています。私自身が現場で抱えていた悩みを解消するために実践した内容を、事例として共有します。

■私の悩み

新人教育や業務知識の習得には、現場ごとに異なるノウハウや情報が多く、効率的な学び方に悩む方も多いのではないでしょうか。
社会人として新たなスタートを切る際、限られた時間の中で必要な知識を着実に身につけることは大きな課題です。
実際の現場では、

  • 業務の引き継ぎや教育に時間がかかる
  • 教わった内容が整理されておらず、後から振り返りにくい
  • 業務知識を体系的に学べる教材や問題集がない
  • AI等で調べても誤情報が混じることがある

などの課題があり、新人が自律的に成長するための環境づくりが求められています。
私自身も、社会人として業務に取り組む中で「必要な知識をどこから、どの順番で学べばよいのか分からない」と感じることがありました。
また、知識の定着や実践力の強化には「繰り返し確認する仕組み」が有効です。
一度教わった内容でも、実際の業務で活用できるようになるには、定期的な振り返りや確認が欠かせません。
そこで、AIを活用して業務知識に関する問題を自動生成し、必要な知識を自分のペースで繰り返し定着させる次のような仕組みを検討しました。

■解決策:社内ナレッジに準拠したAIエージェント

私が抱えていた業務知識の効率的な学び方についての悩みを解決するために、Copilotエージェント機能から私は 「新人サポート」 という社内専用AIエージェントを作ってみました。 最大の特徴は、既存の社内ナレッジをExcelに集約し、そのExcelをAIの学習・参照用の唯一の情報源とすることです。基本外部情報に頼らず、社内で定義された正確な知識だけを根拠に回答することで、誤情報のリスクを排除しました。
さらに、新人が自学習できるよう、疑問点をAIに聞いて業務内容を確認できるだけでなく、「問題を作ってください」と指示すれば、問題を自動生成できる仕組みを搭載しています。
詳細な機能は以下の通りです。

【詳細機能】

1. 社内ナレッジExcelを唯一の学習元として利用する
 a. 社内で定義された正確な情報のみを参照し、外部情報は基本使用しません。これにより、誤情報のリスクを排除できます。
2. 業務内容を質問すると、正確な業務情報だけを返す
 a. 「この作業はどうやる?」と聞けば、Excelに記載された業務フローや手順を提示します。
3. わからない単語を業務関連用語だけで抽出する
 a. 用語の意味を聞くと、Excelにある業務用語の定義だけを返します。用語に関しては、Excelに記載のある用語のみの情報を取得できます。
4. ユーザーから「一問一答の問題を出してください」と指示された場合、一問一答形式の4択問題を自動生成する
 a. ナレッジExcelの記載をもとに、業務知識を確認するための問題を作成します。問題文・選択肢(A/B/C/D)・正解・解説を表形式で生成します。
 b. “業務知識”の定着につながります。
5. ユーザーから「実務的な問題を出してください」と指示された場合、状況・制約・お題・解答例のシナリオ問題を自動生成する
 a. このシナリオ問題は、以下のような構成になっています。
  1. 状況:実際に起こりうる業務課題の提示
  2. 制約:予算や期間など現実的な条件の設定
  3. お題(〜ができる):達成すべきゴールの明確化
  4. 解答例:お題を達成するための解決策を順番に解説
 b. “考える力”の定着につながります。
このAIは、業務知識を効率的に定着させると同時に、“考える力”を育成するために設計された学習支援ツールです。単なるFAQではなく、実務に即した問題演習やシナリオ型トレーニングを通じて、新人が現場で自律的に判断できる力を身につけられる仕組みを提供します。



■超簡単!構築ステップ

私が実践した構成方法を紹介いたします。

【Step 1:ナレッジ整理】

まず、社内に散在していた業務知識を「Copilot_input資料」として集約しました。今回は「Copilot_input資料」は全てExcelに集約しました。
このExcelには、業務に必要な情報を「1行=1知識」として、カテゴリごとに整理しています。

  • 用語・知識:社内で使われる専門用語の意味
  • プロジェクト・業務フロー:登録作業や報告手順
  • 事務処理:申請や書類作成の流れ
  • 情報資産の場所:仕様書や設計図の保存場所
  • 技術・システム関連:システム設定や操作方法
  • チーム・コミュニケーション:メンバー構成や役割
  • キャリア・成長支援:研修制度や報告会の情報

AIはこのExcelを読み込み、質問に対して正確な回答を返します。外部情報は原則禁止。ただし、行に「生成AIにて取得」と明記されている場合のみ、外部情報を取得し、参照URLを添付します。

参考1:「生成AIにて取得」の場合のinput資料の例

番号 用語 説明 参照先
1 システムA 生成AIにて取得 生成AIにて取得
2 システムB 生成AIにて取得 生成AIにて取得
3 システムC 生成AIにて取得 生成AIにて取得
4 システムD 生成AIにて取得 生成AIにて取得
【Step 2:AI設計】

続いてエージェントの設計について説明します。
操作手順は以下です。
1. step1で作成したCopilot_input資料をsharepointに格納。
2. 格納したsharepointのリンクをコピーし、エージェントの「構成」の「ナレッジ」に貼り付け。
3. エージェントの「構成」の「指示」に以下のルールを記載する。
 #ナレッジExcel準拠の回答指示
  a. 前提
    i. ナレッジのExcel資料には次のシートが存在するものとして動作する
       1. 用語・知識
       2. プロジェクト・業務フロー
       3. 事務処理
       4. 情報資産の場所
       5. 技術・システム関連
       6. チーム・コミュニケーション
       7. キャリア・成長支援
    ii. 各シートは行単位で項目と説明が記載されている
  b. 回答ルール
    i. ナレッジExcelに書かれている内容のみを根拠に説明する
    ii. 行の説明に「生成AIにて取得」と明記されている場合のみ外部情報の取得を許可する
       取得した情報の参照先URLを本文末尾に添付する
    iii. 上記以外の行は外部情報の取得を禁止し Excelの記述だけで分かりやすく説明する
    iv. ナレッジExcelに該当記載がない質問が来た場合は次の文言のみ返す
       「ナレッジ資料に記載がありません 」
    v. 説明は初心者に分かるように平易に整理する
    vi. 回答は必ず表形式で表示する(Excel貼り付け時に表として認識されるようにする)
   c. 問題作成の仕様(一問一答について)
    i. ユーザーから「一問一答の問題を作ってください」と入力されたときのみ実行する
    ii. ナレッジExcelの記載から出題する
       行の説明に「生成AIにて取得」とあるものは外部の情報を使い問題を出題する
    iii. 新たなExcelを生成し次の列を持ち10問を作成する
      1. 問題タイトル
      2. 問題内容
      3. 選択肢(必要に応じてA B C Dなど)
      4. 答え
      5. 解説
    iv. 解説はナレッジExcelの記述のみを使用する
    v. 生成された問題データをそのままExcelに貼り付けられる形式で出力する
   d. 問題作成の仕様(実務的な問題について)
    i. ユーザーから「実務的な問題を出してください」と指示された場合、状況・制約・お題・解答例が書かれたシナリオ問題を出題する
    ii. 実務的な問題では、複数の知識を組み合わせて状況判断や解決策を検討する内容とする
    iii. 新たな知識が得られた場合は次回以降の出題で再利用する
   e. 動作手順
    i. ユーザー入力を受けたら該当シートと行を特定する
    ii. 行の説明に「生成AIにて取得」があるかを判定する
    iii. ある場合は外部情報を取得し説明の末尾に参照先URLを添付する
    iv. 該当する記載が見つからない場合は定型文を返す (関連しそうな情報も出力しない)
このルールにより、回答の品質と一貫性を担保しました。

■利用例

実際の利用例を紹介します。問題を生成したい場合の例を紹介いたします。

【操作手順】
  1. 画面を開く
      a. 「新人サポート」を開く。
  2. 入力欄に「一問一答の問題を作ってください」or「実務的な問題を出してください」と指示を記載
  3. 「新人サポート」input資料をもとに10問の一問一答を作成。
      a. 出力イメージ(一問一答の場合)
No 問題内容 選択肢 正解
1 アプリが異常終了した際のスタックトレース等を記録し、原因解析に用いるものは? A:クラッシュレポート / B:セッション / C:Remote Config / D:SDK A
2 修正後に既存機能へ悪影響がないか確認するテストを何という? A:ユーザーストーリー / B:回帰テスト(リグレッション) / C:デプロイ / D:難読化 B
3 「〜として、〜がしたい、〜のために」という形式で利用者視点の要求を記述するものは? A:API / B:ユーザーストーリー / C:クラッシュレポート / D:バージョン下限 B
4 特定機能を提供するライブラリとツールの集合を指す用語は? A:SDK / B:API / C:MAU / D:Remote Config A
5 アプリが外部機能やデータへアクセスするためのインタフェースを何という? A:セッション / B:API / C:デプロイ / D:クラッシュ率 B
6 一定期間の起動に対するクラッシュ発生比率を示す品質指標は? A:MAU / B:クラッシュ率 / C:難読化 / D:バージョン下限 B
7 月間で一度以上起動したユーザー数を示す利用状況の指標は? A:SDK / B:セッション / C:MAU / D:API C
8 ソースコードをコンパイルし、依存関係やリソースをまとめて実行可能なアプリにする工程を何という? A:デプロイ / B:ビルド / C:コンパイル / D:マージ B
9 逆コンパイル耐性を高めるためにコードを変換する手法は? A:難読化 / B:Remote Config / C:デプロイ / D:バージョン下限 A
10 GitHubでコード変更をレビューしてもらい、メインブランチに統合するために作成する申請を何という? A:コミット / B:ブランチ / C:プルリクエスト / D:マージ C

  b. 出力イメージ(実務的な問題の場合)

問題:バックエンド未完成時にstubデータを活用したUI開発戦略

  • 状況(現場で発生している事象の詳細)

 新機能のUI開発を進めたいが、バックエンドAPIがまだ完成していないため、データ取得部分が未実装。
 開発スケジュールを遅らせないため、stubデータを使ってUIを先行開発する必要がある。

  • 制約(対応にあたっての制限事項)

 本番APIは未完成なので、stubデータでUIを動作確認すること。
 stubデータは本番仕様に近い構造で作成すること。
 後でAPI接続に切り替えやすい設計にすること。

  • お題(解決策の提示内容)

 stubデータを活用し、UI開発を効率的に進めるための具体的な対応策を提案してください。

  • 解答例
     APIが未完成だとUI開発が止まってしまうため、stubデータで代替し、後で容易に切り替えられる設計が必要です。
     だから以下のように対応します。

     ・データ構造の定義
      本番APIの仕様書を確認し、レスポンスJSONのキー・型をstubデータに反映します。
     ・stubデータの作成
      ローカルにJSONファイルを用意し、複数パターン(正常系・異常系)を準備します。
     ・データ取得ロジックの抽象化
      Repositoryパターンやインターフェースを使い、stubとAPIを切り替えられる構造にします。
     ・UI動作確認
      stubデータを読み込み、画面表示・遷移・バリデーションを確認します。
     ・テストコード対応
      stubデータを使った単体テストを実施し、UIの安定性を確保します。
     ・切替手順の明確化
      API完成後は、stubデータを削除し、同じインターフェースでAPI接続に切り替えます。
     ・期待効果
      バックエンド未完成でもUI開発を進められ、スケジュール遅延を防止できます。
     ・リスク管理
      stubデータが本番仕様と乖離しないよう、API仕様変更時にstubを更新するルールを設定します。
■この仕組みがもたらす価値

今回の仕組みにより、次の3つの価値を感じています。
1. 業務知識の着実な定着
繰り返し確認できる仕組みにより、日々の業務に必要な知識が自然と身につき、現場で迷わず行動できる力が養われます。
2. 自ら考え、成長する力の醸成
問題機能を活用して「なぜそうなるのか」を自分で考えながら学ぶことで、単なる暗記ではなく、応用力や自律的な思考力が身につきます。これにより、変化の多い現場でも自ら課題を発見し、解決に向けて動ける人材の育成につながります。
3. 誤情報のない安心した学びの環境
社内ナレッジのみを情報源とすることで、余計な情報や誤解を招く心配がなく、常に正確な知識をもとに学びを深めることができます。これにより、現場での判断や行動にも自信を持って取り組めるようになります。
4. 知識定着を支えるAI活用の仕組み
この仕組みでは、単にExcelに記載された内容をそのまま表示するのではなく、生成AIが内容をもとに工夫した問題を自動で出題します。利用者はその問題を繰り返し解くことで、知識の定着度を自分で確認しながら、実践的な理解を深めることができます。
5. 用語知識の拡張と効率的な学び**
業務に関連する用語については、Excelにすべて記載しなくても、生成AIが外部情報を自動で取得し、適切な問題を出題できる仕組みになっています。そのため、Excelの記入作業を最小限に抑えつつ、必要な用語知識も効率的に身につけることができます。

■デメリットと課題

もちろん、課題もあります。それはナレッジ更新の負担です。Excelを情報源としているため、業務変更や新しい知識が発生した際には、Excelのメンテナンスが不可欠です。ナレッジの鮮度を保つためには、更新作業を定期的に行うことが必要になります。

■悩んだ点・躓いた点

今回、「新人教育」を作成するまでに苦労した・躓いたポイントを紹介します。
1. 仕組み設計の悩みと工夫
「AIに資料を渡して“問題を作って”と頼めば、簡単にできるんじゃない?」
きっと、そう思う方も多いと思います。実際、私も最初は「資料をそのままAIに渡して、ルールさえ決めれば自動で問題を作ってくれるはず!」と軽く考えていました。
でも、現実はそんなに甘くありませんでした。まず、AIが資料をうまく読み取ってくれない。例えば、資料の中に複数の情報が混在していると、AIがどこからどこまでを一つの知識として扱えばいいのか分からず、意図しない問題が生成されてしまうことが何度もありました。
また、正確性を重視したいのに、AIが勝手に解釈してしまい、微妙に違う内容の問題ができてしまうことも…。
そこで試行錯誤した結果、資料をExcelで「1行=1知識」として、カテゴリごとにきちんと整理することが大切だと気づきました。この“構造化”によって、AIが迷わず正確に情報を読み取れるようになり、ようやく納得のいく問題が作れるようになったのです。
「ただAIに投げるだけ」ではなく、「どうすればAIが正しく理解できるか」を考え抜いた地味な工夫。このプロセスこそが、今回一番苦労したポイントであり、同時に一番の学びでもありました。
2. “すごい技術”じゃないことへの葛藤
正直、今回の仕組みはとてもシンプルです。 「もっとインパクトのあるIT技術を使いたかった…!」という気持ちもありました。
でも、どんなに技術的にすごくても「使いにくい」「結局使われない」では意味がない。「どうすれば現場で本当に使えるものになるか」を徹底的に考え抜き、“input資料しか見ない”というルールにこだわったことで、安心して使える仕組みにできたと思っています。

■まとめ

「新人サポート」は、新人が自分で学び成長できる環境を提供します。
エージェントに少しルールを追加するだけで完成するので超簡単で、すぐに作成可能です。業務効率化は本当に一工夫で実現できるのだと感じました。
まだ自分しか使っていませんが、これが広がれば、教育担当者の負担は確実に減り、新人が自律的に成長できる環境づくりに寄与できると考えています。