NTTドコモR&Dの技術ブログです。

AI活用無線インターフェースの屋外実証実験の成功の裏側

はじめに

こんにちは、6Gテック部無線アクセス技術担当 林 優太です。

今回は、2025年11月17日に報道発表した「6Gに向けたAI活用無線インターフェースの屋外実証実験に成功」の裏側では、どのような学びややりがいがあったのか、実験を担当した研究者目線でお伝えしたいと思います! www.docomo.ne.jp

目次

AI活用無線インターフェース

6GではAIを活用して、より高品質な通信を提供することが検討されています。今回、報道発表で扱った技術は、AIを用いて、従来必要だった制御信号を使わずともデータを伝送する新たな方式を実現し、周波数利用効率を向上させるものになります。この技術の凄さが一体何なのかを簡単にお伝えしたいと思います!

電波の進み方と信号に与える影響

私たちがスマートフォンで通信を行うとき、基地局と端末間でデータのやり取りを行っています。やり取りには「電波」を用いて行っていますが、電波の進み方はかなり複雑なものです。上図に示していますが、直接届く場合や建物の壁や地面に跳ね返って届く場合、障害物の縁に当たって回り込んで届く場合など,経路は様々です。だからこそ電波が色々な場所まで届くのですが、その一方で複数の経路を辿ることによって、各電波が時間差を持って届いてしまい、信号にひずみが生じてしまう問題が発生してしまいます。

では、この状況でどのように私たちがデータを送受信しているのか?AI活用無線インターフェースとは?という点です。

従来の通信方式とAIを用いた通信方式のデータのやり取りの違い

・従来方式

ひずみの生じた信号から、私たちがほしいデータを読み取るため、従来の方式では「送受既知の信号」を含めてデータを送信しています。この信号があることで、電波が辿ってきた経路でどのような変化があったのかを推測することが可能になり、その情報をもとにひずみを補正していきます。しかし、私たちのほしいデータ以外にも通信を行う上で必須な信号も含めているため、単位周波数当たりで送れるデータ量は少なくなってしまいます。

・AIを用いた新たな伝送方式

AI活用無線インターフェースでは、前述のような「送受既知の信号」を含めないでデータを送り、周波数の利用効率を向上させるということ実現します。既知の信号を送らないでどのようにひずみのある信号を補正し、データを読み取るのか?という点ですが、ここにAIを活用します。本技術では、送受信に以下の処理を行うAIを実装します。

送信側:ひずみが発生しても、受信側で補正しやすいようにデータを送る

受信側:ひずみが発生した信号に対して、もとはどんな信号だったかを推測して補正する

AIが既知の信号の役割を肩代わりすることで、本来、私たちがほしいデータを詰め込むことができなかった部分にデータを詰め込むことが可能になり、トータルとして送れるデータ量が増加することになります。

実験準備から報道発表まで

流れの概略図

前章でお話した技術が実装された装置を用いて、どのような通信を皆さんに提供できるのか、課題や最適なユースケースなど実験を通して明らかにする必要があります。そこで、今回はNTTと共同で実験を行い、色々な環境下で測定を行いました。

上図は企画から実験当日、そして報道発表までの流れを示しています。本記事では、実験準備と実験当日に注目して、ご説明したいと思います。

1. 実験に向けて

実験準備風景

まず、準備段階として「現地調査」「機材の用意と装置の動作確認」「測定項目の検討」など準備にもやることが様々あります。

・現地調査

自分たちのイメージを明確化する役割があります。想像だけでは、実現可能性が曖昧になってしまうので、自分の目で見て、現地の状態を確認する必要があります。今回の実験では、測定車を走らせる実験だったので、ドライバーさんの意見を聞きながら、安全に走行しつつも測定したい速度を達成することが可能なのかも現地に行ってみないとわからないことでした。

・機材の用意と装置の動作確認

電源の確保やアンテナの設置位置、設置方法など当日になって悩まないように準備を行っていきます。特に電源の確保をどうするかが難しく、ギリギリまで悩みましたが、実験前に装置に必要な電力を十分供給できるか試し、最適なやり方を見つけることができました。アンテナの固定・設置方法も悩むところでしたが、実験経験の豊富なメンバーの協力もあり、スムーズに準備することができました。

装置の動作確認も並行して行います。外で電波を発射する前に,まずは実験室かつ電波を発射しないで正常に装置が動くのかを確認します。

・測定項目の検討

1番大事なのは何を確認する実験なのか、何のデータを取って、何を主張したいのかだと思います。ここが曖昧になると全てが台無しになると言っても過言ではありません。今回はAIを活用した新たな伝送方式の性能評価や課題、ユースケースを明らかにすることが目的だったため、ユーザの皆さんが普段使用される移動速度下(徒歩くらい、自動車に乗っているくらいの速度)での測定や公道を用いた実験、建物によって電波が遮られる環境下での実験など、様々な場面を想定して実験を行い、通信品質が従来の伝送方式と比べてどのように変化するかを調査しました。

2. 実験

実験風景

アンテナ設置方法や場所、電源の確保、装置の準備、測定項目の検討などすべての準備が完了したら、いよいよ実験です。

しかしどれだけ入念に準備をしても、うまくいかないことが多く、期待していたデータが取れない、結果に不具合がある、装置が想定通りに動作しないなど実際に実験しないとわからない問題が起きます。そのため試行錯誤を繰り返して正確なデータを取得できるように修正していきます。上の写真にもあるように、今回の実験では、雨の日もありましたが、本測定のために色々と試行錯誤していました。

3. まとめと考察

実験結果については、報道発表の記事でも紹介していますが、本記事でも少しだけ紹介したいと思います。

実験結果(※GPSの制度の都合上プロットの位置に誤差あり)

この結果は、AIを活用した新たな伝送方式と従来の既知の信号を含める伝送方式で、通信速度がどれだけ向上するのかを示しています。プロットが赤色に近づくと大きな向上を表している図になっています。結果を見ると、全体的にプロットの色は緑色になっており、向上度は約18%となります。また、コースの一部分においては従来方式よりも大きくスループットが改善する部分も確認され、従来方式が苦手とするような伝搬環境であっても、通信品質の劣化抑制が期待できます。

すべてを終えて

ここからは私が率直に感じたことをお伝えします。

現在、私は入社2年目で、まだ経験も浅い立場ですが、このような大きなプロジェクトを担当できたことを非常に光栄に思っています。

準備から報道発表に至るまで、正直、苦労は少なくありませんでした。私自身,主担当で大きなプロジェクトを進めるのが初だったので、右も左もわからない状態からのスタートでしたが、その分だけ多くの学びを得ることができたと思います。

実験までの流れや技術的・専門的な知識を身に付けられたのはもちろんですが、個人的に最も学びが大きかったのは、それぞれが知恵を出し合い、1つのゴールに向かっていく原動力が非常に大きなものであるというのを実際に身をもって感じられたことだと思っています。準備から報道発表までの間に私は、色々な方に出会い、多くのサポートをいただきました。この報道発表は、皆さんのサポートあってこそ実現したもので、決して一人では成し得ませんでした。この学びは、手探り状態から始めたからこそ得られたものだったと思います。

また、本プロジェクトはドコモだけでなく国内外の複数の企業が関わっています。この実験に関しては、NTTの皆さんとともに実施しました。そのため、ドコモを代表し社外の皆さんと議論を重ねながら進める責任がありました。このような責任感あるプロジェクトを担当できたことは自身の成長にとって重要な経験だったと思います。

AIを活用した無線インターフェースの評価については、引き続き実証実験を通じて行う予定です。6G×AIによって、皆さんの通信がより快適なものになるようにこれからも頑張ります!

Special Thanks

実験メンバー集合写真

今回の報道発表は、たくさんの方々のご協力があって実現しました。この場を借りて、心より感謝いたします。