NTTドコモR&Dの技術ブログです。

標準化活動初心者のための3GPP会合参加入門(現地対応編)

ドコモ 6Gテック部の本田です。

先日、本開発者ブログにて3GPPのCT4会合参加レポートを投稿しました*1。 ブログ内ではこの記事に限らず3GPPの会合に関する投稿も多く、読者の皆さまの中には「そもそもどうして3GPP会合に参加しているんだ?」「会合ってどんなことをしてるんだ?」と疑問に思っている方もいらっしゃると思います。そんな方のために、私自身が経験したことも踏まえて3GPP会合へ参加する理由や流れを紹介しようと思います。実際には各企業や団体により手続きや方針が異なる部分も多いと思いますがなるべく一般化して記載しているため、自分も3GPPにかかわってみたい!という方の参考になれば幸いです。

会合に参加するまでの事前準備から参加完了までの全体像を書いてしまうと膨大な文章量となってしまうため、まず本記事では渡航前の準備から会合現地でどのように過ごすかまでをお伝えします。

※この記事はNTTドコモ Advent Calendar 2025の21日目の記事となります。

なぜ会合に参加するのか

まず、現在の3GPP会合は現地参加が前提となっています*2。会合やグループによってはハイブリッド開催 (現地+オンライン) としている場合もありますが、オンライン参加者は聴講のみで発言ができないといった制限を設けていることが多いです。

会合に参加する一番大きな目的は、自社の考えた提案を国際標準仕様に組み込むことです。 たとえば通信オペレーターであれば、今後のサービスに必要な機能の追加や、運用上の課題を解消するための仕様改善、相互接続性の維持などを目的とすることになります。

そういった要望が各社から提案書 (寄書、TDoc) として入力され、会合の場において参加者全体での合意形成が図られます。 会合の場で合意された内容は3GPPの技術仕様書 (Technical Specification, TS) に反映され国際標準仕様として制定される、もしくは技術報告書 (Technical Report, TR) という形でまとめられます。 自社の提案を通すだけでなく、他社の提案に対して賛同できる内容であれば賛同し、自社の不利益となる内容であれば反対するといった立ち回りも必要となります。 標準化業務に関する詳細はこちらの記事*3をご覧ください。

要望を提案するだけであればオンライン会議でもあまり制約がないようにも思えますが、実際には技術ディスカッションを中心とした緻密なコミュニケーションが重要となってきます。 提案における背景や意図といった部分は文章からだけだと伝わりにくく、現地での補足説明や休憩時間の非公式な対話といった、参加者間での対面での議論や交渉を経て合意を形成することが必要となります。 そういった細かなやりとりはオンライン会議には不向きな部分も多く、移動体通信の標準化という一見どこよりもオンライン化を推進していそうな集まりですが、現地会議を継続している大きな理由の一つになります。

飛行機・ホテルの手配

会合の現地対応についてあれこれ考えることも大事ですが、そもそも会場までたどり着けないとせっかくの準備も無駄になってしまいます。

3GPPの会合はアジア、北アメリカ、ヨーロッパを中心に世界各地で開催されます。会合だけでも多くの参加者がいるのに加えて、会場が観光地だったり現地の別なイベントと被っていたりすると非常に混雑するため、航空券やホテルは早めに手配したほうが確実です。また、国によってはビザや事前申請 (ESTA、ETAなど) が必要になるので、渡航前に完了できるように手配しておきましょう。

オレンジ色のピンの位置が2025年の各作業グループ (WG) の会合開催地
© OpenStreetMap contributors (ODbL 1.0)*4

日本国外での開催の場合もそこまで治安の悪い地域は選ばれないはずですが、それでも日本と比べると心配となるケースも多いと思うので、会場から距離が離れていたり特に治安に不安のある地区に位置していたりするホテルは避けた方が無難かもしれません。また、早朝セッションや入力した寄書の修正作業が入ることも珍しくないため、そういった意味でも会場に近く過ごしやすそうなホテルを選ぶメリットは大きいです。会合によっては3GPP推奨ホテルの割引 (Meeting rate) が提供されることもあるので、それを活用するのも一つの手です。

会合当日の動き

旅行の手配や会合の事前準備もすべて完了し、無事に会場に到着しました!

CT4#131会合の会場写真 (ETSI本部)

出欠の取り方やセキュリティは会場や作業グループ (WG) で異なることがあるので、受付の案内やメーリングリストの連絡を都度確認しましょう。たとえば私が前回参加したCT4#131会合では、登録時に表示されるQRコードを提示することで出席登録がなされ、バッジ (ネームカード) を受け取ることができました。

会合の流れ

会合の進行はおおむね月曜〜金曜の9:00〜19:30がベースで、開始・終了時刻は寄書数や議論の進捗により変動します。1セッション90分+休憩 (Coffee break) 30分がセットになり、お昼は90分の休憩 (Lunch break) という構成が一例ですが、WGや開催地によって変わることがあります。議論の進行状況により事前のタイムプランから変更となることも多いので、議論中のアナウンスや会合中に更新される最新版の予定を確認する必要があります。

CT4会合におけるタイムプランの例 (日程やアジェンダ詳細は省略)

進行や雰囲気に関しては各WGの文化、ひいてはその時の議長の方針によっても大きく変わるので一概には言いづらいところがあります。そのため、CT4での実例をベースになるべく細部には触れずに記載します。

大きな流れとしては、まず入力された寄書を順に発表し、その内容に対して会場の参加者全員で議論を行います。議長が仕切って進行していきますが、ブレイクアウト (Breakout) としてセッションが並行する際には副議長が担当します。 議論が一通り終わった後、議長よりその寄書の扱いに関して、全参加者に意見を求めます。その場の全員が内容に合意すればAgreedとなり、コメントや反対意見が挙がり修正が必要になった場合はRevised、その場で合意や否決には至らなかったものの情報として受領された場合にはNotedとなります。また、議論内容によって他の寄書との統合 (Merged) 、議論の延期 (Postponed) や取り下げ (Withdrawn) となることもあります。寄書の数によっては時間が足りずに扱われない (Not handled) 場合もあり得ます。 RevisedやMergedとなった寄書は会合中に修正を行い、アジェンダを一通り終えた後で再度取り上げる時間が設けられるのでそこで再度発表することになります。

休むだけじゃない、重要なCoffee break

Coffee breakなどの休憩時間は、オペレーター/ベンダー/端末・チップメーカー/政府機関といった業種や団体の垣根を越えてフランクに話すことができるとても貴重な機会になります。 休憩中はコーヒーエリアなど会場の休憩スペースに多くの人が集まり、前のセッション中に議論しきれなかったことを話す、これから議論される予定の内容に関して事前に相談する、お互いの会社の方針に関してざっくりと聞いてみる、標準化のことは一旦忘れて世間話をする……といったさまざまな会話がなされます。

標準化という場において他社は対立相手というだけではなく内容によっては味方になってくれる協力関係でもあり、何よりも共にこれからの移動体通信の標準仕様を作っていく共同体です。 ですので、むやみに敵を作ってもあまりよいことはなく、こういった時間を利用してお互いの理解を深め信頼関係を築いていくことが重要だと考えています。

全体の流れは以上となりますが、以下に筆者が個人的に感じたことも記載します。

体調管理の重要性

3GPP CT4#131会合参加時の移動スケジュール

私が前回はじめて参加したCT4#131会合はフランスのソフィア・アンティポリスでの開催で、日本と7時間の時差がありました。 時差ボケや長旅の疲れが癒える間もなく月曜日朝イチのセッションが始まってしまうので、決して万全とは言えない状態で議論に参加することになりました。寄書や各議題への対応だけでなく体調管理も重要であることを痛感しました。

会合の日程や他組織の会議との競合によってはよりワイルドな移動スケジュールとなることもあるため、多くの会合に参加するようになってくると移動中や渡航前後の過ごし方から気を付けなければいけないようです。

寄書の修正後は事前にチェック

提案した寄書に各社からコメントをいただきRevisedとなった場合、それぞれの意見を反映もしくは元の内容を維持するように交渉した上で再発表に臨むことになります。 セッション中は意見の要点のみをお伝えいただくことが多く意図を汲み取り切れないこともあるので、Coffee break中に「さっきのコメントはこういう理解で合ってる?」というような形で確認を取るとスムーズに進めることができます。 会合の時間も限られているので、事前に対応できる内容はすべてクリアした上で再発表に臨むことが重要になります。

会社の代表者として振る舞う

ネームカードにも名前や会社名に加えて「代表者 (Delegate)」という肩書きが記されています。

会合は所属団体の代表者 (Delegate) として参加することになります。そのため、会合中の質問やコメントは個人の意見ではなく所属団体の総意として扱われます。雰囲気が会社内や研究学会の発表に近いところもあるので個人的な見解を述べたくなることもあると思いますが、常に会社の方針や他社の動向を念頭に置きながら発言するようにしましょう。

終わりに

標準仕様を決めるにはさまざまな知見が必要となります。 とりわけ6Gなどこれからのネットワークを見据えた議論では、無線・コア・アプリケーション・AI・セキュリティ・法規制・運用など多角的な視点と最新の実装知識が求められるため、既存のメンバーだけでなく新しい人が加わりそれぞれの分野の知見を持ち寄ることが重要になります。 このように参加者が増えることで6Gや今後の移動体通信がよりよいものになると考えています。 本ブログを読んでいただき、標準化の世界に興味を持たれた方が、新たな参加者になっていただけることを願っております。

今回の記事ではまず現地での会合をどのように進めるか?といった部分に焦点を当てました。 「会合当日は分かったがそもそもどうやって会合に参加するんだ?」という内容に関しては今後の記事で紹介する予定ですので、引き続き本ブログをチェックいただければと思います。

参考文献