当記事はドコモ社員が国際標準化団体「3GPP」の副議長に当選したことに関する振り返りや、キャリアについての内容となります。
- 1.はじめに
- 2.そもそも3GPPって何?
- 3.3GPP標準化担当者の仕事とは?
- 4.国際標準化会議での苦労とそこで学んだもの
- 5.副議長就任とキャリアについて
- 6.【あとがき】6Gの国際標準化活動に向けて
1.はじめに
NTTドコモR&D戦略部の石川と申します。 この度2024年6月の3GPP TSG-CT#104会合での副議長選挙にて、3GPP TSG-CT副議長に当選いたしました。2021年からのTSG-CT4副議長就任に続き、通信業界の標準化を牽引する団体の要職を拝命することとなり、大変光栄に存じます。 この場をお借りして、ご支援いただいた関係者の皆様に心よりお礼申し上げます。
It is an great honor and am pleased to announce that I, Hiroshi Ishikawa, Manager at R&D Strategy Department of NTT DOCOMO, was elected as 3GPP TSG-CT Vice Chair at 3GPP TSG-CT#104 meeting held on June 2024. I would like to take the opportunity here to thank all who supported myself for such an important role in 3GPP.
・・・と、冒頭からいきなりカタい文章になってしまいました。 改めましてこんにちは、石川です。国際標準化の業務にかれこれ15年以上携わっております。ここからは、ちょっと緩めに国際標準化組織「3GPP」とは?またそこでの副議長当選やキャリアについて、皆さんにご紹介できればと思います。
2.そもそも3GPPって何?
まず、3GPPについて簡単に説明します。3GPP(3rd Generation Partnership Project)は、3G世代からの移動体通信の国際標準仕様を策定している国際標準化団体です。簡単に言えば、皆さんが今使っているスマートフォンが世界中どこでも繋がるためのルールを作っている団体です。 そんな3GPPは大きく3つのグループから構成され、それぞれのグループの配下にはさらに分野に特化したワーキンググループが存在しています。私自身は2021年以来、TSG-CTのCT4というグループの副議長を担当し、この度TSG-CT全体を担当する立ち位置での副議長に選ばれました。
3.3GPP標準化担当者の仕事とは?
3-1.国際標準化担当というお仕事のミッション
先ほど3GPPでは(ざっくりすぎますが)スマートフォンがどこでも繋がるためのルール作りの団体とお伝えしました。これ、現場でどうやってルールつくっているか想像できますか?会議室で・スマートに・各社笑顔で意見交換・・・なわけはなくって、「英語つかって」「世界中の企業を相手に」「喧々諤々の」議論を繰り広げます! なぜなら、3GPPを始めとした国際標準化会議の担当者(参加者)のミッション、それは技術仕様を議論するプロフェッショナルとして
- 自社の寄書(提案書)を国際標準仕様に採用してもらうこと(=寄書を通すこと)
- 自社の製品仕様にとって不都合な他社の提案をブロックすること
- (あわよくば自社の都合のよいように議論を誘導すること)
だからです。 というわけで会合参加者みなさんは毎回本気です。みなさん各社を代表として国際会議に来ており、自社にとって都合が悪い仕様が通ってしまうと、自社の製品仕様を変更しないといけなかったりして、会社に損がでてしまいます!なのでたまーに議論→喧嘩からのマイクの奪い合いに発展することも・・・!(汗)
補足)会議であまり発言せず、じーっと聞いているだけの人も勿論います。サプライヤーに実際の会合での議論を任せているケース、あるいは情報収集を行い自社製品へ活用するケース、会議の流れをみてプレゼンの戦略を決める重鎮など。
4.国際標準化会議での苦労とそこで学んだもの
4-1.フィジカルにもメンタルにも強くあれ
国際会議標準化会議は世界各地で開催されます。(会議主催コストが結構高いので参加各社の地域で平等に分担しているのです。)都度それに向けて出張するので、時差ボケがまあ辛い辛い。しかも飛行機がちゃんと飛ぶとは限らないし、空港がストライキ起こすことも?!ヨーロッパでの国際会議に到着して自分は既に眠くてフラフラだけど、相手はキレッキレで議論をかましてくる・・・。なかなかフィジカルにもメンタルにも厳しいお仕事だなあということで、これを機に筋トレを初めました。(この仕事に限った話じゃないけど健康管理は超・大・事)
4-2.オフラインでの仲間づくりは大事
この仕事を通して実感していることがあります。 それは、
- 「自分を信頼してもらうこと」
- 「仲間を作ること」
の大切さです。 こういう信頼関係を作るときに大事だなと思うのが会議の外で「オフライン」での議論。例えば会議後の飲み会やコーヒーブレイク中の会話ですかね。旧時代の意見のように聞こえますが、寄書が通るか通らないかは紙一重。また、自社の寄書の提出時に、他にどれくらい同意してくれた企業がいるかも重要です。「オフライン」での議論やネットワーク構築、水面下の交渉は大事だというのは、私の意見としてお伝えしておきたいです。
4-3.リーダー役の経験
寄書が通らなかったり通ったり、他社と揉めたり仲良くなったり、他社の提案をブロックしたりサポートしたり・・・そんな経験をつづけたなか、ある時ラポータ(特定の検討項目のリーダー)を務めました。ラポータは、検討範囲の明確化、進捗管理、必要な文書 の取りまとめ等を行います。でも、その前にやりたい事のスコープを決め、最低4社のサポートを取り付け、検討を開始自体の合意(コンセンサス)を取り付けないとスタートできない!というなかなかハードな役割。でもこのリーダー役を経験したことで、新しいキャリアパスが見えてきました。会議自体のリーダー役、「副議長」のキャリアです。
5.副議長就任とキャリアについて
5-1.会議参加者から会議のリーダー役に
2021年4月、TSG-CT4の副議長に立候補し、各社の賛同を得て当選しました。今までとは一気に視座が変わります。標準化会議の担当者であれば、自身や会社の思い描く世界を訴求していくことが求められますが、議長や副議長は公平性や意見のすり合わせとそれに応じた指針を示すことが大事です。
5-2.副議長としての自分のスタイル・工夫
副議長のタイプは人それぞれ。全体の意見を丁寧に拾っていくタイプもいれば、ひたすら会議をズバズバ取り仕切っていくタイプ、あくまで会議の交通整理に徹する人など、いろんなタイプがいます。私自身はTHEリーダー!というタイプではないものの、発言者の意見の尊重のさせ方、議論状況のサマリ、現時点で状況など共有、なによりも議論が過熱したときの場の落ち着かせ方など、今では自分なりの副議長のやり方を身に着けることができました。初めて議事を行った日は緊張しましたが、今では会議の雰囲気を和らげるちょっとした一言も添えられるくらいにはなりました。会議は真面目にやりますが、どこか楽しい・おかしい部分も残したいですね。
5-3.キャリアパスについて
国際標準化の仕事には様々なキャリアパスがあります:
- バックオフィスでの分析担当
- 会合での提案プレゼンや他社の寄書へのコメント対応
- 特定案件のリーダー役(ラポータ)
- 副議長や議長
共通しているのは、モバイル通信の基礎的な仕様検討に関わりながら、異なる視点や立場で貢献していくことです。 なお、私は今回あらためてTSG-CT副議長に選ばれましたが、少なからずCT4での副議長としての実績を評価いただけたから・・・と信じています。みなさんのご期待を超えるような存在を目指して頑張ります!
6.【あとがき】6Gの国際標準化活動に向けて
2024年8月から6Gの検討が本格的にスタートしました。4G LTE時代から国際標準仕様に関わってきて来た私にとって、6Gの検討の場に立ち会えることは非常に感慨深いことです。
この仕事は未来を創っていく仕事です。 6Gが実現すれば、超高速・大容量・低遅延・高信頼性通信が可能となり、医療や交通などのインフラの進化やAI機械学習術との連携によって、これまで以上に便利な社会が実現します。
私としてはTSG-CT Leadership Teamの一員として、自社の声だけでなく、日本やグローバル市場全体に寄与する6Gをいかに作っていくか、モチベーションの高い各社の活動をリードしていきたいと考えています。
ここまでお読みいただきありがとうございました。 「国際標準化」という仕事はあまり知られていないかもしれませんが、この機会に少しでも理解を深めていただけると幸いです。今後も、多くの関係者とともに、ドコモだけでなく世界中の多くのお客様に新しい時代のモバイル通信の価値を「標準化」の立場から提供していきます。ぜひ、ドコモの国際標準化担当の取り組みにご注目ください!