NTTドコモR&Dの技術ブログです。

【研究紹介】6G時代の超高速・大容量通信システムの実現に向けた取り組み紹介

はじめに

 こんにちは、NTTドコモ 6G-IOWN推進部 無線技術担当の山本です。私たち無線技術担当では、6G (第6世代移動通信システム) powered by IOWN (Innovative Optical and Wireless Network)に向けた次世代通信ネットワークの無線技術に関する研究を行っております。また、令和3年度から総務省受託研究「100GHz以上の高周波数帯通信デバイスに関する研究開発」に参画しております。今回の記事では、6Gに期待される超高速・大容量通信システムの実現に向けたドコモの取り組みと、国際会議27th Asia-Pacific Conference on Communications (APCC2022)で発表いたしました高周波数帯通信デバイスに関する研究成果の一部(Best Paper Award受賞)について紹介いたします。

6Gで目指す要求条件

 ドコモでは、6Gで期待されるさまざまなユースケースや、目標性能、技術要素などの技術コンセプトをまとめた“6Gホワイトペーパー”を発表しております。詳しくは“6Gホワイトペーパー”をご覧いただきたいのですが、6G では新たな無線通信技術による100Gbps 超の超高速通信や、5Gのシステム容量(単位面積当たりでの通信速度の総量)の100 倍以上の超大容量化の実現を目指しています。そのような通信環境では、通信速度が人間の脳の情報処理速度のレベルに近づくので、これまでの見る・聞く・話すといった視覚・聴覚の伝送にとどまらず、五感の伝送、さらには、その場の雰囲気や安心感などの感覚をも伝えることができる「多感通信」の実現が期待されます。

6Gでめざす無線ネットワーク技術への要求条件(ドコモ6Gホワイトペーパーより)

超高速・大容量通信システムを実現するためには

 通信分野の勉強をすると必ず目にする有名な式の1つに「シャノンの通信容量定理」があります。この式では通信容量(理論上得られる通信容量の限界値)は、信号帯域幅(使用する周波数の幅)と、信号と雑音のレベル比で決まることを示しています。 この式から分かるように、信号の帯域幅Bを広げること(広帯域化という)で通信容量Cを大きくすることができます。一方で、広帯域化するためには、広い周波数帯域を確保する必要がありますが、携帯電話等の移動通信用途で現在使用している周波数帯の付近には、新たに使用可能な広い周波数帯域がありません(参考:総務省 我が国の電波の利用状況)。そこで、新たな周波数帯域として、サブテラヘルツ帯(100 GHz ~ 300 GHz)と呼ばれる高周波数帯が使えないか、と世界的に研究開発が行われています。しかし、サブテラヘルツ帯の無線装置や無線システム設計は難しく乗り越えるべき多くの課題がございます。また、その実用化は大変な挑戦で、まさにサブテラヘルツ帯を「開拓」しているようで、今後技術を一つ一つ積み上げていく必要があります。

サブテラヘルツ帯無線システムの検討

 現在、私たちは前述の令和3年度から参画している総務省受託研究において、移動通信システムへの適用を見据えたサブテラヘルツ帯無線装置に関する研究開発を行っております。目標は、周波数100 GHz超帯伝送距離100 mにて、伝送速度100 Gbps超を可能にする無線技術の確立です。実際に100 GHzを超える周波数帯を使用した無線システムを構築し、実証したいと考えておりますが、実際の装置を使用して目標性能を達成するためには、乗り越えるべき課題があります。その一つは、装置の不完全性(理論値からのズレ)による伝送品質の劣化です。これまでの装置にも不完全性はありましたが、伝送速度100Gbps超を達成するためには、これまでにない高い周波数や、広い周波数帯域を使う必要があり、そのことによって不完全性の伝送品質に与える影響がより顕在化することが分かりました。

souti の不完全性**(理論値からのズレ)による伝送品質の劣化

無線装置の不完全性補償技術

 私たちは無線装置の不完全性による伝送品質劣化の原因をさらに踏み込んで検討を行い、①無線通信で使用する周波数帯域(信号帯域)内における特性の偏差、②増幅器で生成されるひずみ成分に着目し、その補償技術を提案しました。

①信号帯域内における特性の偏差に対する補償

 信号伝送は一定範囲の周波数(帯域)を使用して行いますが、高品質の(誤りの少ない)信号伝送を行うためには、装置は信号帯域内の各周波数に対して同じ特性をもっていることが望ましいです。下のグラフはあるサブテラヘルツ帯信号を増幅する装置(増幅器)の利得(=出力電力/入力電力)の周波数特性の例です。155 GHzを中心とした2 GHz幅(154~156 GHz)では利得の偏差は1 dBですが、8 GHz幅(151~159 GHz)でのそれは2 dBとなっており、横軸の周波数の範囲が広がるほど、縦軸の利得の偏差が大きくなっていることが分かります。この偏差が大きくなるほど伝送品質に与える影響が大きくなります。

増幅器の利得の周波数特性の例
そこで私たちは、このような周波数特性の補償方法を提案し、提案方法によって、伝送品質が改善することを実験によって確認いたしました。
周波数特性の補償方法

②増幅器で生成されるひずみ成分に対する補償

 送信機に用いられる増幅器では、アンテナから放射される電波が所定の強さになるように信号を増幅します。通信用途では所定の帯域幅(信号帯域)をもった信号を用いますが、そのような信号を増幅する際に下図に示すように信号帯域以外にひずみ成分が生成されてしまいます。このひずみ成分は伝送する信号の周波数帯域外に広がっているため、例えば隣の周波数帯を別の事業者が使用している場合には、別事業者のサービスに影響を与える懸念があります。したがって、ひずみ成分を抑える必要があります。そこで私たちは、サブテラヘルツ帯でこのひずみ成分を抑える装置(リニアライザ)を提案し、効果をシミュレーションにて確認しました。

リニアライザによるひずみ成分の抑制

 上述した①、②について、国際会議27th Asia-Pacific Conference on Communications (APCC2022)にて発表を行いました。②については会議内で優秀な論文に授与されるBest Paper Awardを受賞いたしました。

おわりに

 6G時代の超高速・大容量通信システムの実現に向けた取り組みの一部を紹介させていただきました。来年度は構築したサブテラヘルツ帯無線システムを用いて、実際に100m離隔した伝送実験を予定しております。最後までお読みいただきありがとうございました。

謝辞

本稿には、総務省からの委託を受けて実施した「電波資源拡大のための研究(JP000254)」の成果の一部が含まれております。