NTTドコモR&Dの技術ブログです。

ドコモの無線標準化担当者が日本ITU協会賞を受賞しました!

こんにちは。 ドコモで主に無線標準化を担当している吉岡です。 今回は先日受賞したITU協会賞についてご報告と私のこれまでの活動をご紹介します! ドコモの無線通信の取組みをみなさんに知っていただける貴重な機会ですので、ぜひ最後までお付合いください。

はじめに:受賞のご報告

冒頭に記載のとおり日本ITU協会賞 奨励賞を受賞し、2025年5月16日に開催された「令和7年度 世界情報社会・電気通信日のつどい」において記念のトロフィーを授与いただきました。3GPP標準化における、V2XやNTNなど5Gの産業創出やソリューション協創を実現する標準仕様の策定への貢献を評価いただき、今回の受賞となりました。

3GPP標準化の業務に従事してから約8年間にわたってコツコツ取組んできた自分の仕事を評価いただけてとてもうれしいです。そして、このような名誉ある賞を受賞して大変光栄に思います。

そもそも「日本ITU協会賞*1」とは、電気通信や放送、ICT分野における国際標準化や国際協力活動に貢献した個人や団体に贈られる賞です。国際的な取組みを評価する賞として1973年から続いており、現在では特別賞や功績賞、奨励賞などの部門に分かれ、毎年5月に表彰が行われています。今後も継続的な寄与が期待される個人や団体に対しては、奨励賞が贈られます。

ドコモグループの日本ITU協会賞受賞者

受賞背景:どんな活動をしてきたのか。

ここからは、私のどのような活動が日本ITU協会賞の受賞に寄与したのかを私のこれまでの標準化関連の活動についてご紹介したいと思います!

14社を動かした対話力!

5G標準化に飛び込んだ新人時代
私は2017年から3GPP標準化の業務を担当することとなりました。
はじめは5Gの初期仕様の検討を行い、ドコモの5Gネットワークの実現や性能向上に貢献を目指しながら、標準化業務の基礎やコツを学んでいきました。

5G初期リリース前後の標準化スケジュール

想定外の仕様とはじめての提案
標準仕様を確認する中で、ドコモが5Gネットワークで使用することを想定していたある重要な機能が、ドコモの想定どおりには仕様化されていないことが判明しました。
この機能を標準仕様へ追加するミッションの担当者として私に白羽の矢が立ちました。

  • 📌2018年5月の標準化会合にて、私ははじめての技術提案を行いました。

しかし現実は甘くなく、当初は多くの会社から反対の声が上がってしまい戸惑いと焦りを感じました。

対話の力で14社の賛同を獲得
そんな中、先輩の助言をもとに、私は反対している企業と一社一社と根気強く対話を重ねました。

  • 雑談も交えることで良好な関係を築く
  • 機能の必要性を相手の立場からていねいに説明

この積み重ねが身を結び、最終的には14社からのサポートを得て、標準仕様への機能追加を実現することができました。

現場で得た学び

  • 💡技術議論ではあっても、”人と人”の関係がカギを握る
  • 📝雑談の力、一対一で話すことで本気度が伝わる

結果的に良好な関係を築くことができて、結果としてドコモ提案に賛成の立場をとってくれる会社が多く、標準化議論の難しさと面白さを感じたことをよく覚えています。

先輩の姿から得たもうひとつの教訓
一社だけは最後まで反対していて当時の私の力量では説得できませんでした。 最終的には先輩が登場して短時間で賛同を得るという場面もあり、その姿に深く感銘を受けました。

  • 相手から懸念をよく聞いて妥協点を提示する

この学びを今でも活用して標準化業務を行っています!

信頼性に命を懸けた挑戦!

新たなテーマ「V2X」との出会い
2019年からV2X(Vehicle to Everything)の標準仕様策定に取組みました。
これは、自動車が外部と通信を行うことで安全運転支援や自動運転などの高度な仕組みを実現できるようにしよう、というものです。
5Gにおける産業連携の目玉技術の一つであり、数年以内の実用化が期待されています。
その中でも私は、自動車同士や歩行者など端末間の直接通信の技術仕様についての議論に注力しました。

V2X概要

信頼性へのこだわり -命を預かる通信だからこそ
会合に臨むにあたり、私たちはまず「ドコモとして何に重点を置いて技術提案をしていくべきか」を徹底的に考え抜きました。
その結論が、「高い信頼性の実現」です。

  • 🚗自動車の通信は、人命にかかわる。
  • 当時、自動車業界から無線通信への信頼性の懸念について多くの声が上がっていました。
  • 人命にもかかわる産業だからこそ、無線通信における信頼性は妥協できない—この強い思いが原動力でした。


会合での苦悩
私は信頼性向上の観点から考え抜いた多数の技術を標準化会合において提案しました。
しかし、端末動作の簡易化などを優先する提案も多く、しばしば対立する場面がありました。
それでも私は、これまでの経験を活かして一社一社と対話を重ね、相手の懸念点に寄り添いながら妥協点を提示して合意形成をめざしました。

ここでの学び

  • 💭信念をもって提案しつつも、対話を通じて納得を得る
  • 🔍技術者としての信頼性の拘りと調整力を両立させる


ドコモ提案が標準仕様へ
最終的に数多くのドコモ提案が標準仕様に反映されました。
結果として高い信頼性で無線通信を行う自動車の実現が可能になりました。
特に印象的だったのは、他社からの鋭い技術的指摘に対しても、事前検討を徹底していたことで即座に回答ができ、そしてドコモ提案に説得力を持たせたことです。

  • 🔧「準備は最大の武器」―技術的な備えが自信と説得力に直結しました。


議長的役割で学んだ「調整の極意」とは

NTN:宇宙との通信で新たな価値を創出
2020年からは並行してNTN (Non-Terrestrial Networks)の標準仕様策定に取組みました。
これは、スマートフォンなどの端末が人工衛星を介して通信を行うことで、従来のモバイルネットワークが届かない地域にも新たな価値を提供しようという挑戦的な取組みです。

NTN概要

はじめての「とりまとめ役」という新しい立場
このNTNのうち、私は特に上りリンク通信の接続性担保の観点について、標準化会合の場における「とりまとめ役(特定の技術項目の議論グループにおける議長的役割)」を担当しました。

  • 🎤「議論を主導し、各社の意見を集約して合意案を作成する」
  • 全会一致が原則のもと、各社から入力される意見を適切に集約して合意案を作成し、議論を主導する非常に難しく大変な役割です。


合意を導くために
とりまとめ役として次の3つを意識していました。

  • 各社の技術的な背景や意図、思惑の深掘りを引き出す。
  • 合理的な理由に基づく主張か否かを慎重に見極める。
  • 必要に応じて毅然とした対応を取る。


ここでの学び

  • 💼「主張する力」だけではなく、「まとめる力」が必要とされる場面がある
  • 🌎異なる文化、思惑をもつ多国籍企業の中で、公正な進行役として信頼を得る行為は非常に貴重な経験となりました。


活動全体を振り返って

今回の受賞は、こうした標準化会合における技術議論の主導や産業発展に対する貢献を評価していただいたものとなります。
正直に書くと、標準化活動に参加し始めた頃には私がこのような賞をいただけるほどの貢献ができるようになるとは全く思っていませんでした。自信もなかったですし、会合の場で一言発言するだけでも心臓がバクバクして勇気を振り絞っていたことをよく覚えています。
ですから、もし同じような不安を抱えている方がいれば、少しずつでもいいので一歩一歩踏み出して前に進んでみてほしいと思います。それを続けているといつの間にか大きく成長した自分に気づく日がきっと来るはずです。

終わりに:今後の意気込み

ここまで約10年にわたってメインで標準化議論が続けられてきた5Gから、いよいよ6G中心の標準化議論へと移行していきます。
将来のドコモのネットワークのために、ひいてはモバイル業界全体の発展のために、全力で6Gの技術検討と標準化活動に取り組んでいきます。
そしてみなさまに夢のあるサービスを、世界を、お届けしますので楽しみにお待ちください。

脚注

*1:※1日本ITU協会賞…本賞は情報通信分野における国際標準活動などに顕著な功績を挙げた個人・団体に対して、一般財団法人である日本ITU協会より送られる賞です。詳細:https://www.ituaj.jp/?page_id=102