NTTドコモR&Dの技術ブログです。

ドコモの未来を創るリサーチャー育成コミュニティX-Labの挑戦

X-Labを運営する山田(左)・落合(右)




ドコモ開発者ブログ編集担当の川波です。今回は本ブログ初となる社員インタビュー記事になります。 機械学習・HCI(human computer interaction)のアカデミア領域で活躍し続ける落合・山田が発足した後進リサーチャーの育成コミュニティ「X-Lab」の取り組みと今後のビジョンについて聞いてきました!

(※撮影・取材は最近オープンしたばかりの新拠点お台場ラボで実施しました。)

インタビューに向かう編集担当の川波


目次

プロフィール

ゲスト:落合 桂一

株式会社NTTドコモ クロステック開発部 主査(※所属は取材日時点) / 東京大学松尾研究室 特任助教

2008年にNTTドコモ入社後、ソーシャルメディアやスマートフォンログ、携帯電話の運用データに基づく人口統計データなど実世界のセンシングと、それらのデータに対する機械学習の応用に関する研究開発に従事。複数の研究を実用化する一方で、難関国際会議での論文採録やICWSM 2020 Best Paper Honorable Mentionsや情報処理学会 情報処理技術研究開発賞受賞、世界的な機械学習コンペKDD CUP 2019 Regular ML Trackにおいて1st Prize⼊賞などアカデミックな活動も行っている。




ゲスト:山田 渉

株式会社NTTドコモ クロステック開発部 主査(※所属は取材日時点)

2012年にNTTドコモ入社後、インターフェース、ドローン、自然言語処理を専門とした研究に従事。2017年に世界初の飛行する球体ディスプレイ、浮遊球体ドローンディスプレイを発表。ACM CHIやUISTといった難関国際会議での論文採録やNASA Space Apps ChallengeやJunction Asiaをはじめとした様々なハッカソンでの受賞実績もあり。


リサーチャー育成コミュニティX-Labができるまで

💡 リサーチャー育成コミュニティX-Labとは?

2021年10月に発足したリサーチャー育成コミュニティ。新技術構想~著名な国際会議での発表、事業部提案まで一連の業務を、指導者のサポートのもと行い、高い構想力・技術力・影響力を備え自立した高度技術者を育てるOJT形式の育成施策で、トップ会議での発表や技術発の事業創出に興味を持つ社員を対象に”ドコモ”の中ではなく”世界で”通用する技術者を育成することを目的としている。


川波:本日はよろしくお願いします。いきなり本題に入っていきたいのですが、現在お二人が運営されているリサーチャー育成コミュニティX-Labは元々はどのような経緯で発足したのでしょうか。



落合:元々はクロステック開発部の前身である先進技術研究所時代に、部に閉じるのではなくR&D組織横断で技術交流がしたいという話になったのがきっかけです。

新しい技術に挑戦したいけどそういう文化がチーム内になく挑戦できていないという声を若手社員から聞き、挑戦する文化を作って対外的に発表していったら会社としてのアピールにもなるし、本人の成長にもつながると思ってやり始めたのがこの取り組みです。



山田:新しいことをやりたいと思っている熱意ある若い方が、直近の業務で忙殺されていたり、何から初めたらよいか分からないということがあったので、そういった方と⼀緒に⾯⽩いことができる仕組みを作りたい、というのがありましたよね。 以前もドコモオープンハウスでイノベーションチャレンジという、本業以外で、自身の好奇心から作ったものを自由に展示できるという取り組みをしていました。しかし、こういった展示がコロナ禍で縮⼩した関係でできなくなってしまって。 こういった好奇心をきっかけに先端技術を楽しく探索できる機会は、イノベーションの創出には重要だと思うんですよね。




「研究」を通して育成を行う訳

川波:そのような経緯があったんですね。先ほどのお話の中で気になったのですが、なぜ『研究』という部分に重きを置いたコミュニティにしようと思ったのでしょうか。



落合:研究では取り組んだ内容を論文としてまとめて世の中に出すことが多いですが、これを自分で経験することが大事だと思っています。ビッグデータが注目された頃からいろんな企業がトップ国際会議に論文が採録されるとプレスリリースを出して、アピールするようになってきたのですが、中には大学との共同研究成果が多いケースもあり、その企業の真の実力が見えない部分もあるのではないかと思っていました。もちろん共同研究でも企業が研究内容にしっかり貢献していれば問題ないとは思いますし、我々も共同研究はしているので重要性も理解しています。しかし最終的には企業が研究を実用化していくことになりますし、共同研究で論文は出るけど事業で活用されないものばかりになっては困るので、自分たちだけで研究して論文を出すというサイクルを回せることを重要視してやっています。

論文を書くためには世の中にない研究テーマを自分で一から考えて、似たような研究に対してこういう工夫をすると新規性や有効性を出せるんじゃないかという試行錯誤もありますし、実装して仮説が正しかったことを証明した上で、英語で論文をまとめて、動画まで撮影してスケジュールを組みながらやるので本当になんでもやらないといけないんですよね。



山田:なんでもをやるという意味では、研究はなんだか総合格闘技みたいですよね。でもそんな風になんでもやることが出来るようになれば、研究という道だけじゃなくて、様々な分野でものすごく活躍できる下地が出来上がっているとも思うんですよね。だからこそX-Labでは論⽂を書いて出すことを重要視していて、⾃分たちが論⽂を出すことでしてきた経験をコミュティに共有しながら進めています。そして、その中からどんな環境でも通⽤するような素晴らしい技術者が育ってくれると良いなと思っています。




研究領域に重きをおいたコミュニティでの取り組み

川波:論文を出すことを通して総合的なスキルが身につけれるということなのですね。そうなると教えることもいろいろあるのかなと思うのですが、X-Labには何名が参加されていて、参加されている方はどのような方々なのでしょうか?



山田:参加人数は時期によって変動がありますが、だいたい十数名です。参加している人の中にはフィンテック、音声認識、ドローンをやっている人とさまざまですね。ただ、参加している人みんなに共通しているのは「自分が正しいと思うことをやりたい」というモチベーションが圧倒的に高い傾向がありますね。進め方などはもちろん指導するのですが、モチべーションが高いので自分自身で考えて自発的に学びながら加速していける人かなと思います。中には本業を論文化したいと言う人や、趣味を研究にしたいと言う人もいますね。

だけど、そのままだと世の中の誰かがやっていたり、本当に意味があることなのかなどを吟味する必要があるので、本人の興味を尊重した上で、世の中のものとして新しくて価値があるものを、一緒に走りながら『伴走する』ことで研究テーマとして磨き上げていくということをやっていっています。「これをやりなさい」とは絶対に言わず、自発的な意思を尊重した上で方向性をガイドしてあげるイメージですね。



落合:実はX-Labに参加する前に少しハードルを設けていて、最初に「自分が興味があるテーマに関するトップ会議の論文を3本調べてきて発表する」という課題があるんですよね。

誰でもウェルカムというより、本気で取り組む人たちが集まるコミュニティにしたいと思ってそういう設定にしています。



川波:モチベーションが高い人が集まる裏には、そのような人が集まる工夫があったのですね。伴走するというお話がありましたがX-Labでは具体的に参加者はどのように学ばれているのでしょうか。



山田:X-Labでの学び⽅には主に3つあるかなと思っています。

1つ⽬は講義形式で研究方法を学ぶことです。「虎の巻」と我々は呼んでるんですけど、そもそも研究とはなにかという考え方や研究のアイデア出し、論⽂としてのまとめ⽅、スケジュール管理方法のコツといった、我々がたくさん指導してきた中での知⾒をまとめた資料があるんですよね。それを使ってこういう⾵にしていくと良いよというのを講義形式で伝えています。これは指導してる中で気づくことがあるので毎年落合さんと共にアップデートしています。

2つ目は、我々が「伴走」しながら、実際に研究をする実践での学びです。講義で学んだからといって、実際にはすぐ出来るわけもなく、必ず壁にぶつかります。そのため、参加者に実際に研究テーマを立ててもらい、それについて我々が逐次アドバイスしながら論文投稿や事業化をめざします。そして講義で学んだことを実践できるように経験を積みます。

3つ⽬は参加者同⼠の学びです。このX-Labでは定例をはじめとした様々な機会で、他の参加者が指導を受けてる場面を見たり、参加者同士で話せる機会があります。そのため、もっとこうすればいいのでは?、こういうアイデアどうか?、我々のデータと組み合わせみたらどうか?といった議論が参加者同士でしばしば起こります。これによって僕らが教えるだけじゃなくて、コミュニティの中で学び合う環境があると思っています。





川波:ただ教わるだけでなく、伴走して学んだことを今度は教える立場になることでコミュニティ内で学び合える環境ができているのですね。実際にどのような取り組みがX-Labから出てきているのでしょうか?



落合:実はNDAなどでまだお話しできない内容もあるのですが、世界的に有名な観光地に類似する日本の観光地を推薦する「ジェネリック観光地」は、複数の他社から共同検討の引き合いがあり、その中で地方創生の自治体向けソリューションや、観光特集記事作成への活用に向けた検討が進んでいます。この取り組みの中で四国ツーリズム創造機構様と四国の新たな観光スポットを発掘する実証実験を行い、そこで使われている技術は、論文としてACM UBICOMP'20でポスター発表[*1]しました。



山田:他にも社員の会社へのエンゲージメントを可視化する「Work engagement推定」というテーマでAsian CHI symposiumのposterでBest paper[*2]を受賞していたり、情報処理学会論文誌採録に加えて特選論文へ選出[*3]されたり、他にも昨年度はHCI(Human Computer Interaction)の分野で著名な国際会議 ACM UISTデモ論文を3本発表[*4][*5][*6]していたりしますね。




育成コミュニティの醸成に向けて

川波:論文投稿から共同での実証実験と幅広く活躍されているのですね。多くの研究成果が出てきているX-Labですが、このようなリサーチコミュニティを運営する立場として意識されている点などありますか?



山田:やはり社外での経験を積んでもらうことを⼀番に意識してます。世界中の秀才や天才が集まる国際会議に参加してみると、⾃分よりもずっと年下の学生さんがすごい研究をしていたり、賞を取っていたりするんですよね。そういう経験は会社の外に出ないと学べません。そのため、会社の中に閉じず活動することを意識をしてもらうことがすごく重要だと思っています。そして成果を出して国際会議に参加、国際会議で刺激を受けてさらに頑張る、そしてさらに成果が出て・・・といった正のフィードバックループになることをめざしています。その第1歩を踏み出すために、少しプッシュすることもよくありますね。



落合:他にも学会発表で海外出張したときにDII(米国にある研究活動の拠点DOCOMO Innovations, Inc.のこと)というシリコンバレーにある拠点に寄って、現地の最新情報を聞いたりもしていて、そういった社外での経験をコミュニティの中で共有してもらうことで他の人も刺激を受けて、コミュニティ全体が盛り上がっていく仕組みが出来てきていますね。

実は教える立場の我々もコミュニティ内で学ぶことがあって、教えるためには自分が研究している時に何をしているのかを言語化・客観視しないといけないので、自分の経験がなぜうまくいったのかを振り返る良い機会にもなっています。



山田:私も学ぶことはたくさんありますね。こう教えれば理解しやすいんだといった指導における学びもありますが、今までにない専門的な知見を参加者から貰うことも多々あります。参加者の専門が、電子回路だったり機械学習、⾳声認識、フィンテックなど非常に多岐に渡るため、それぞれの分野において⾃分よりもずっと詳しい参加者がたくさんいます。このように背景の異なる参加者が、議論することで、様々な分野の知識が共有されています。これは⾃分にとってもものすごく良い勉強になりますし、他の参加者全員のためにもなっていると思っていますね。




拡大し続けるX-Labの今後

川波:最後に、X-Labの今後の見通しやビジョンについて教えていただけますか。



落合:人数規模は今くらいのまま質を上げていって、X-Labの中で成長した人が次の人を育てられるような育成のサイクルをもっと回していけるといいなと思っています。



山田:今は量を上げようにも、指導者的な⽴場の⼈が我々2⼈しかいなくてこれ以上増えてくるとパンクしてしまうというのもあります。そのため、落合さんが言うようにX-Labで成⻑した⼈が次の⼈を教えるサイクルを回していって段々と拡大できたらなと思っています。また拡大する方法としては、他の企業や大学などの社外の方々とコラボするなんてやり方もあるかなと思います。



川波:この記事を見てくださったことがきっかけでコラボに繋がった時にはぜひ教えてください!本日はお忙しい中取材に応じていただきありがとうございました!




(取材日:2023/6/15)


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この記事の編集担当


インタビュアー:川波 稜

株式会社NTTドコモ サービスイノベーション部 社員 (※所属は取材日時点)

2020年にNTTドコモ新卒入社後、画像認識を専門とした研究開発業務に従事。技術記事を発信するための NTTドコモR&Dアドベントカレンダー で2021年・2022年運営を担当。2023年より ドコモ開発者ブログ の編集担当で取材記事の投稿を企画。

カメラマン:佐々木 祐理

株式会社NTTドコモ サービスイノベーション部 社員(※所属は取材日時点)

2020年にNTTドコモにキャリア採用で入社後、レコメンドを専門とした研究開発業務に従事。変革人材創出プログラム ドコモアカデミー の1期生。NTT初のメンタルヘルスについて語れる会社公認サークル ドコモメンタルヘルスラボ のFounder。


*1:Hisao Katsumi, Wataru Yamada, Keiichi Ochiai. Generic POI recommendation. In UbiComp-ISWC '20: Adjunct Proceedings of the 2020 ACM International Joint Conference on Pervasive and Ubiquitous Computing and Proceedings of the 2020 ACM International Symposium on Wearable Computers, Pages 46–49. https://doi.org/10.1145/3410530.3414421

*2:Hiroaki Tanaka, Wataru Yamada, Keiichi Ochiai. Estimating Work Engagement from Online Chat Logs. In Asian CHI Symposium 2021, Pages 70–73. https://doi.org/10.1145/3429360.3468184

*3:Kubota, K., Sato, H., Yamada, W., Ochiai, K., & Kawakami, H. (2022). Content-based Stock Recommendation Using Smartphone Data. Journal of Information Processing, 30, 361-371.

*4:Mariko Chiba, Wataru Yamada, and Keiichi Ochiai. 2022. Shadowed Speech: an Audio Feedback System which Slows Down Speech Rate. In Adjunct Proceedings of the 35th Annual ACM Symposium on User Interface Software and Technology (UIST ’22 Adjunct). Association for Computing Machinery, New York, NY, USA, Article 66, 1–3. https://doi.org/10.1145/3526114.3558640

*5:Masayasu Sumiya, Wataru Yamada, and Keiichi Ochiai. 2022. Anywhere Hoop: Virtual Free Throw Training System. In Adjunct Proceedings of the 35th Annual ACM Symposium on User Interface Software and Technology (UIST ’22 Adjunct). Association for Computing Machinery, New York, NY, USA, Article 65, 1–3. https://dl.acm.org/doi/abs/10.1145/3526114.3558639

*6:Wataru Yamada. 2022. M&M: Molding and Melting Method Using a Replica Diffraction Grating Film and a Laser for Decorating Chocolate with Structural Color. In Adjunct Proceedings of the 35th Annual ACM Symposium on User Interface Software and Technology (UIST ’22 Adjunct). Association for Computing Machinery, New York, NY, USA, Article 67, 1–3. https://dl.acm.org/doi/10.1145/3526114.3558642