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国内最高の発明コンテストである全国発明表彰において、ドコモの5G基本発明が「内閣総理大臣賞」、「発明実施功績賞」を受賞

■はじめに

2023年6月12日に行われた公益社団法人発明協会が主催する令和5年度全国発明表彰式において、ドコモが発明した第5世代移動通信システム(5G)の基本発明について、ドコモ社員4名が「内閣総理大臣賞」を受賞しました。また、その技術開発および実績に対する会社の業績が認められ、井伊基之代表取締役社長が「発明実施功績賞」を受賞しました。本記事では、受賞した発明の概要と発明者の声(発明に至った経緯や苦労した点等)を紹介します。

 

■全国発明表彰とドコモの受賞歴

全国発明表彰は、大正8年、我が国における科学技術の向上と産業の発展に寄与することを目的に始まり、多大な功績をあげた発明、考案、または意匠、あるいは、その優秀性から今後大きな功績をあげられることが期待される発明などを表彰しています。科学技術的に秀でた進歩性を有し、かつ顕著な実施効果をあげている発明に対して、最も優秀と認められる発明に「恩賜発明賞」、特に優秀と認められる発明に「内閣総理大臣賞」など10件の特別賞が贈呈されます。

ドコモは、第1世代(アナログ)から第4世代(LTE)の移動通信システムにおいて、連続して全国発明表彰で受賞しており、今回で5世代連続の受賞を達成しました(表1)。

 

ドコモの全国発明表彰受賞歴

表1 ドコモの全国発明表彰受賞歴

 

■受賞発明の概要

受賞発明

「5Gにおける効率的な通信開始のための同期信号ブロック構成法の発明」

 

受賞者

<内閣総理大臣賞>

原田 浩樹 6G-IOWN推進部

武田 和晃 総務人事部

武田 大樹 移動機開発部

永田 聡 6G-IOWN推進部

<発明実施功績賞>

井伊 基之 代表取締役社長

 

発明の概要

受賞した発明は、5Gに関する基盤技術で、世界中で利用されている全ての5G対応端末で使われている技術です。本技術により、世界中の5G通信サービスを実現し、スマートフォンやタブレットの普及を支える通信インフラの発展に貢献しました。また、今後、あらゆる産業において5Gの活用が期待される中、本技術は世界中の産業を支える根幹として活用されるものです。

本発明は、同期信号ブロック内において、携帯端末が最初に探索する第1の同期信号と周波数方向に隣接するリソースには報知チャネル(端末が通信を開始するために必要な情報を基地局から送信するためのチャネル)を含め他の信号を配置せず、携帯端末が第1の同期信号発見後に探索する第2の同期信号と周波数方向に隣接するリソースには報知チャネルの一部を配置する、同期信号ブロック構成法です(図1)。

第1の同期信号と周波数方向に隣接するリソースに他の信号を配置しないことにより、探索する際に他の信号が干渉して検出精度や検出遅延が劣化してしまうことを防ぎ、素早く正確な第1の同期信号の発見を可能とします。第2の同期信号と周波数方向に隣接するリソースには報知チャネルの一部を配置することで、同期信号ブロック全体の帯域幅および時間長を抑えながら、報知チャネルに必要なリソースを確保します。

これらにより、同期信号・報知チャネル各々に要求される検出精度や検出遅延を満たしながら、セルサーチ対象の候補周波数を絞ることができ、携帯端末が通信可能となるまでの時間や消費電力を抑えるとともに、周波数利用効率を向上させました。具体的には、本発明の同期信号ブロック構成法を適用しない場合と比較して、周波数利用効率を維持しながらも、携帯端末が通信可能となるまでの時間や消費電力を約3分の1に抑えることができます。

 

本発明の同期信号ブロック構成法

図1 本発明の同期信号ブロック構成法

 

■発明者の声

今回の発明に至った経緯

5Gでは、4G通信をはるかに上回る高速・大容量化を実現するために、高周波数帯を含む幅広い周波数の利用が必要です。スマートフォン等の携帯端末は、通信を開始する際にセルサーチと呼ばれる処理により、基地局から周期的に送信されている同期信号を標準仕様で規定される所定の周波数間隔で探索しますが、5Gでは同期信号を探索する周波数範囲が4Gと比較して非常に広いため、4Gと同じ周波数間隔で探索を行うと通信開始に時間がかかったり、携帯端末の消費電力が大きくなってしまう課題がありました。

また、5Gでは一つの基地局がサービスを提供する通信エリアを多数のビームでカバーし、エリア内の個々の端末との通信ではそれぞれに最適なビームを利用するビームフォーミング技術が高速・大容量化のために用いられます。5G端末は、通信先となる基地局および通信に最適なビームを同時に探索する必要があり、そのために基地局はビームの識別子を含む報知情報を同期信号と合わせて多数のビームで送信します(図2)。同期信号や報知情報を送信するために必要な時間・周波数リソース(無線周波数を用いて信号を送信する際に用いられる送信時間の長さおよび周波数帯域幅)が増えると、その分データ通信に用いることのできる時間・周波数リソースが減り、周波数利用効率が下がってしまいます。

これらの課題を解決するため、筆者らは同期信号ブロックと呼ばれる同期信号と報知チャネルを含んだ信号群の適切な構成法を見いだしました。

5Gにおけるセルサーチ処理

図2 5Gにおけるセルサーチ処理

 

研究・開発中に苦労したこと

本発明は5Gに関する基盤技術として5G標準仕様に採用されています。5G標準仕様として採用されるためには、3GPP (3rd generation partnership project)へ寄書(3GPPに参加する各社が提案・意見入力を行う際に用いる技術文書)として提案し、議論に参加している全ての会社の合意を得る必要があります。ここで、3GPPは3Gの国際標準仕様を策定することを目的に設立された標準化プロジェクトであり、4G以降の移動通信システムの国際標準仕様の検討・策定も行っています。各社それぞれが自社で考えた提案を持ち寄って議論を行うため、自社の提案への合意を取り付けるためには他社が納得できるだけの十分な材料をそろえる必要があります。本発明では同期信号ブロックの帯域幅を減らすことによるセルサーチ候補周波数の削減効果を示すだけでなく、第1の同期信号と周波数方向に隣接するリソースには報知チャネルを含め他の信号を配置しないことで第1の同期信号の検出特性がどれだけ改善するか、報知チャネルの送信に用いる時間周波数リソース量を変えた場合の検出特性の変化などを計算機シミュレーションによって網羅的に検討して明らかにし、定量的に本発明の効果を示しました。

5Gの標準仕様策定作業は非常に注目度が高く、そのような結果を示しても自社の提案にこだわる会社もいたため、他社の実装部門も交えた個別会議を行っての交渉や別の他社と連携しての説得など、様々な手を尽くしてようやく合意を得ることができました。

 

■まとめ

ドコモは今後も5G Evolutionや6Gなどの移動通信技術の研究開発および標準化を推進し、これからの産業や社会を支える次世代通信インフラの実現に向けて、新しい基盤技術の創出に貢献していきます。