はじめに
こんにちは!6Gテック部 NTN技術担当の外園です。
ドコモの6Gテック部では、大阪・関西万博で開催された「Beyond 5G Ready Showcase」で最新技術を展示しました。本記事では展示内容や注目ポイントなどをご紹介します。
展示会概要
「Beyond 5G Ready Showcase」は、2025年5月26日(月)から6月3日(火)まで大阪・関西万博の「未来のコミュニティとモビリティ ウィーク」で開催された、次世代通信技術Beyond 5Gの体験型展示イベントです。 研究開発ブースでは、研究者から最先端技術を直接学ぶことができました。
ドコモは株式会社Space Compass、日本電信電話株式会社、スカパーJSAT株式会社と共同で、早期実用化をめざしている高高度プラットフォーム(high-altitude platform station: HAPS)の関連技術を展示しました。具体的には、ソーラープレーン型の無人航空機であるHAPSに無線通信装置を搭載し、携帯電話の4Gや5Gの電波を高度約20kmの成層圏から地上に吹くことで、圏外エリアである山奥・海上・離島などをエリア化することができます。

展示内容紹介
今回の「Beyond 5G Ready Showcase」でのドコモ研究開発技術の展示内容についてご紹介します。
「HAPSの模型」
AALTO社のHAPS “ゼファー(Zephyr)”における約25分の1スケールの模型を展示しました。この機体の驚きポイントを3点ご紹介します!
1. 成人男性一人分と同じくらい軽い
実際の機体は翼長25m、重量75kg程度であり、大きさに対しとても軽い機体になっています!離陸するときは車に搭載したカタパルトから発進することが可能で、2つのプロペラを使ってゆっくりと旋回しながら成層圏に上がることができます。
2. 太陽光発電によって数か月間連続で飛行可能
この機体には翼の上面にソーラーパネルが組み込まれており、太陽光発電によって数か月間程度の連続飛行ができる点が大きな特徴です。また、成層圏は雲よりも高い空域のため、天候に依らず昼間に発電が可能で、夜間も蓄電した電力を活用して通信サービスの継続が可能です。
HAPSは衛星からのコマンドにより飛行ルートや速度などを制御することができます。たとえば平時は山奥や海上などで通信サービスを提供し、災害発生時や大規模イベント時に、その場所へHAPSを移動させ、一時的な通信サービスを提供することも可能です。
3. 地上基地局からの電波を折り返すことで、4Gや5Gの端末と直接通信が可能
機体前方のポッドに通信用の装置(ペイロード)を搭載します。ここで、地上基地局に接続したゲートウェイ装置からHAPSにむけて電波を送信し、ペイロードがその電波に対し増幅と周波数変換を行って地上に折り返すことができます。これによって、4Gや5Gの端末がHAPSと直接通信することが可能になります。実際ドコモはケニア上空の高度約20kmの成層圏を飛行するHAPSを介した端末へのデータ通信実証に成功しています。
HAPSがエリア化できる範囲は半径50km程度を想定しており、電波がこれまで届かなかった山奥・海上・離島などの広いエリアを上空からカバーすることが可能になります。また、宇宙空間にある衛星と比べ、1機あたりでカバーできるエリアは小さいものの、地上との通信距離が短いHAPSの方が端末との速い通信速度と低遅延を達成することができます。たとえば、すでに普及しているスマートフォンがHAPSと直接接続し、動画の視聴やアップロードが可能になるほどのMbps級の通信速度の達成が期待できます。
なお、通信サービスの他にも、カメラ等のセンサーをHAPSに搭載し、地球表面の情報を遠隔で取得するリモートセンシングのサービスも期待されます。


「ゲートウェイのモックアップ」
研究開発中の可搬型ゲートウェイのモックアップを展示しました。このゲートウェイはHAPSを介してユーザー端末の対向となる設備であり、地上基地局につなげてインターネットに接続するために必要なものです。また、将来のHAPS通信サービス提供効率のボトルネックになり得るゲートウェイ局の建設という課題を解決するために、固定設置ではなく可搬型のゲートウェイ局の開発を進めています。
本ゲートウェイはTMYTEK社による最先端の電子制御アンテナ(electronically steered antenna: ESA)技術を採用し、HAPSの位置情報データを基に電子的にビームを指向させて通信を行うことができます。

「HAPSシミュレータ」
HAPSと地上ネットワークの干渉を模擬し、将来のHAPS通信性能を計算することを目的としたシミュレータを展示しました。本シミュレータではドコモの商用地上サービス提供範囲を一部模擬し、その上でHAPS商用初期から後期まで段階的に、複数のHAPSによる通信性能を模擬することが可能です。HAPSは電波/航空レギュレーション観点で気軽に国内実験できないため、このシミュレータ上で適用し、要素技術を研究開発しています。
本シミュレータは2020年度から開発を継続しており、最新の更新としては、送受信機で複数のアンテナを用いるMIMO技術による大容量化や、地上網との帯域分割・周波数繰り返し技術による干渉抑制技術、通信方式に周波数分割多重(FDD)のほかに時分割多重(TDD)を用いる技術などについて実装し、追加の検証を実施しています。たとえば以下HAPSシミュレータの画面では、端末が4Gや5Gで利用できる2GHz帯の20MHz帯域幅を地上網とHAPS網で共用するために、地上網を下側10MHz、HAPS網を上側10MHzに帯域分割してエリアを重畳させることで、お互いの電波干渉を防いでいます。さらに、地上網が存在しない海上などのエリアでは、HAPSが下側10MHzや20MHz全域も柔軟に選択して利用することで、HAPSの複数エリア(ビーム)間の干渉も合わせて抑制しています。

来場者の反応・エピソード
展示期間中は絶え間なくお客さまにご来場いただき、HAPSのことを知らないお客さまから詳しい技術者まで幅広くご意見をいただきました。
HAPSは災害対策にとても有効だと思います。たとえ地上の通信網や交通網が麻痺しても、空中から迅速に通信のエリアを作ることができるためです。いざというときに、我々のスマートフォンがWi-Fi等の追加の設定をすることなく、そのまま通信できることがとても重要だと思います。
HAPSのビジネスを成立させるために、災害時だけでなく平時のサービスも検討されているのですね。たとえば山奥や海上で通信を必要とするお客さまを見つけて、複数のお客さまが1機のHAPS通信サービスを相乗りで活用できれば、ビジネスが成り立つかもしれないですね。
衛星と異なりHAPSは地上に戻ってくるのでさまざまな機器に取り換えられるメリットは有益ですね。衛星は一度打ち上げたら終わりですが、HAPSはより持続可能なインフラだと思いました。
他のどのパビリオンよりも未来感があって万博の展示の中で最も良かった。日本でのHAPSの商用化を楽しみにしています。

おわりに
今回はBeyond 5G Ready Showcaseについて、ドコモのHAPS技術をお伝えしました。
今後の展望としては、国内でのHAPS早期実用化に向けて必要な実証実験を確実に遂行し、通信性能に問題がないことを確認したいと思います。また、HAPS高度化に向けた研究開発として、MIMOや周波数繰り返し技術を活用した高速大容量化や、衛星バックホールを活用した高機動化について検討を進め、HAPS通信サービスをさらに使いやすく進化させたいと考えています。
将来的には、HAPS以外にも静止衛星や低軌道衛星等を組み合わせた非地上ネットワーク(NTN)による多層ネットワーク構造を造り、宇宙や成層圏を介して地上の端末がいつでもどこでも通信サービスを利用できる世界をめざしたいと考えています。ぜひ、ドコモのNTN技術にこれからも着目ください!さらに本取組みの詳細にご興味がある方は以下引用のNTN特設サイトをご覧ください。
外園:これまでは主に技術の専門家向けの展示会へHAPSの展示を行ってきましたが、今回は専門家ではない一般のお客さまに多くご来場いただける万博で展示させて頂き、商用化が迫っているHAPSへの大きな期待の声をたくさんいただく事ができました。こうしたお客さまの声を直接聞くことができるとてもいい機会だったと思いますし、HAPSの研究開発や実用化を着実に遂行する大きなモチベーションになりました!
深澤:多くのご家族連れの方々にご来場いただき、HAPSを知っていただく貴重な機会となりました。普段はあまり接する機会のない方々の生の声を聞けたことは、無線通信技術者としての私たちのモチベーションを大いに向上させる体験でした。これからも日本のユーザーのみなさまに安心・安全をお届けできるよう、引き続き努力を重ねてまいります。また、個人的には今回初めての万博体験となり、予想を超える大勢の来場者に大変驚かされました。万博全体が非常に盛り上がっていると実感し、訪れる価値を再認識しました。
今後も最新の技術情報や展示会の様子をお伝えしていきますので、引き続きお楽しみに!
謝辞
本発表は、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT(エヌアイシーティー))の委託研究(JPJ012368C07702)によって実施しています。