はじめに
こんにちは!ドコモ 6Gテック部の野﨑です。
2030年代の社会を支える次世代通信規格「6G」の実現に向けた動きが本格化してきました。
本記事では、2025年8月25日~29日にスウェーデン第二の都市であるヨーテボリで開催された、3GPP SA2#170会合の様子を速報としてお伝えしつつ、これから6Gにおけるコアネットワークの標準化がどのように進んでいくのか、解説します。
「そもそも3GPPって何?」という方もいらっしゃるかもしれません。3GPP (3rd Generation Partnership Project) とは、モバイル通信の国際的な標準仕様を策定するプロジェクトです。ここで作られたプロトコル(仕様)に基づいて、世界中のメーカーがスマートフォンや基地局などを開発するため、異なるメーカーの機器間でも正しく通信が行われ、私たちは自分のスマートフォンで世界中どこででも同じようにモバイル通信を使えるのです。
特に、SA2はコアネットワークアーキテクチャの標準仕様を策定している、非常に重要なグループとなっております。 3GPPについて、詳しくは下記の開発者ブログ記事でご確認ください。
※本記事は2025年中頃現在の状況と個人の見解を反映したものであり、将来の展開を保証するものではありません。

SA2における6G標準化タイムライン
3GPPでは、通常2つのフェーズを経て仕様が固まっていきます。
- Study Phase:まず、まず、検討対象となるユースケースや技術などをテーマ(Study Item: SI)として設定します。そして、そのテーマの範囲内で各社がさまざまな技術的なアイデア(ソリューション)を提案し、その有用性や課題を議論します。この段階での議論の成果は、TR (Technical Report) という技術文書にまとめられます。
- Normative Work Phase:Study Phaseでの結論もとに、具体的なシステムの動作を定義していきます。ここで作られるのがTS (Technical Specification) と呼ばれる、「仕様書」です。私たちが普段使っているスマートフォンも、このTSに基づいて作られています。
6G標準化は、まず、StudyがRel-20(Release-20)で行われ、Normative workがRel-21で行われる予定です。これらの作業完了時期はまだ流動的ではありますが、Studyは2027年、Normative workは2029年まで行われる見込みです。

SA2における6G標準化は、2025年5月の福岡会合で最初の研究テーマ(SI)が合意され、まさにStudyが始まったばかりです。以降では、8月に行われた#170会合における議論状況を簡単に共有します。
SA2#170会合のアクティビティ
今回会合は、6GのSIが合意されてから初めて本格的な技術議論が行われる場となり、世界中の通信キャリア、ベンダーからエンジニアが集結し、活発な議論が行われました。

6GのSIは、「Study on Architecture for 6G System」という非常に大きなテーマです。検討の進み方として、まず、WT(Work Task)と呼ばれる、議論すべき大きな項目が決められ、その後それぞれのWTに対し検討範囲(Scope)と具体的な検討課題(Key issue)の議論が行われます。その後、Solution提案と結論付けが行われ、Studyが完了します。 具体的なWTについては、下記の5月会合レポートをご確認ください。
本会合は、最初のステップとして、それぞれのWTで「検討範囲(Scope)と具体的な検討課題(Key issue)」を明確にする作業が行われました。
このScope/Key issueを定義するだけで、世界中の企業から合計300件もの提案文書(寄書)が提出されました。ドコモからも多くのWTに対して寄書を提出し、議論に貢献しています。6Gにかける各社の期待と意気込みの表れといえるでしょう。
さて、300件の提案を一つひとつ議論することは不可能です。そのため、各WTごとに議論のpen-holders(取りまとめ役)が選出され、各社の提案を一つの文書に統合し、その文書上で修正や議論を加えていく、というスタイルで進められました。
しかしながら、「6Gの最初の議論」であることから各社の意見はさまざまで、公式のセッションやコーヒーブレイク中の立ち話まで、多くの時間を使って議論が続けられましたが、Network Sharingを除いた全てのWTは合意されず、次回以降に持ち越しとなりました。私自身も各社の担当者と多くの意見を交わしましたが、やはり企業・地域レベルで6Gに対する意見の違いを感じました。特に、AIやComputingといった新たなネットワークサービスに関わるトピックにおいて、活発な議論が繰り広げられていました。これらは各社のビジネスや商用ネットワークに影響を及ぼす可能性があることから、積極的にモバイルネットワークへ取り入れていきたい企業と慎重派の企業に分かれていました。
本会合の結果を踏まえて、引き続き10月・11月会合での合意をめざして継続的に議論される予定です。ご興味のある方は、ミーティング後のReport(SP-250940)をご参照ください。
おわりに
今回は、始まったばかりの3GPP SA2における6G議論の最前線をご紹介しました。
ドコモは、6G Studyのラポータを務めています(詳細はラポータを務めるMallaが執筆した下記記事をご確認下さい)。引き続き、世界中の仲間たちと議論を重ね、日本の技術やユースケースを反映させながら、よりよい6Gの仕様策定をリードしていきたいと考えています。
次回の10月会合で議論がどう進展するのか、またこのブログでご報告できればと思います。ご期待ください!