はじめに
こんにちは、6Gテック部無線アクセス技術担当 新入社員、林優太です。
今回は、3月5日から7日に京都工芸繊維大学で開催された無線通信システム研究会(RCS研究会)にて、6Gシミュレータに実装したAI-ML(Artificial Intelligence-Machine Learning)を用いた将来予測制御技術について技術展示・口頭発表を行ってきたので、ご報告したいと思います。
6Gシミュレータとは?

現在、普及が進んでいる第5世代移動通信システム(5G)ですが、並行してBeyond 5Gや第6世代移動通信システム(6G)の実現に向けて、さまざまな大学・企業などの研究機関で研究開発が行われています。6Gでは、5Gよりもさらに高速・大容量、低遅延、高信頼な通信を提供することが考えられています。それによって、自動運転や遠隔医療、超高画質動画ストリーミングなど、新たな価値を創造することが可能となります。ほかにも、陸海空、そして宇宙といったあらゆる場所であらゆるモノがネットワークにつながることを目標としており、5G以上に高い通信性能を提供することが期待されています。
6Gが実現したとき、どのような世界になるのかを明確にすることが6G実現への推進力となります。そこで、私たちは6Gシステムレベルシミュレータ(6Gシミュレータ)として、6Gコンセプトをシミュレータ上で可視化し、個々の6G技術をシステム全体として評価できるツールの開発を進めてきました。シミュレータを用いることで実環境の制約を超えて、さまざまなシナリオで新しい技術の評価を行えるようになります。
6Gシミュレータを用いた評価に関しては,ほかにも記事がありますので、そちらも一緒にご覧いただけたらと思います!(参考1)
AI技術の台頭と無線通信システムへの導入
みなさんもAIという言葉を1度はどこかで聞いたことがあると思います。最近では、生成AIの発展が目覚ましく、文字や画像、音声などの生成を私たちの指示1つで簡単に行えてしまいます。AIのすごいところは、AIが自ら考え、判断し、実行するという点です。6G時代では、膨大なデータ量がネットワークを行き交うとされています。私たちはそのデータの中から自分たちに必要な情報を取捨選択し、活用していく必要があり、その際にAI技術を用いて大量のデータを分析、活用することが重要となっていきます。
AI技術は上述のデータ活用のほかにも、無線通信システムそのものへの適用も検討されています。たとえば、端末が通信を行う基地局の選択や、信号の送り方、ネットワークや端末の状態の管理などをAIが通信環境に応じて適応的に変化させることが考えられています。これによって、より高品質な通信を提供することが期待されます。
AI-MLを用いた将来予測制御技術
6Gのユースケースには、常に高品質な通信を提供し続けなければならないものがあります。しかし、通信端末が建物や車両によって隠れてしまい、通信品質(スループット)が劣化してしまう可能性があります。今回はそんな遮蔽の影響の低減をAI技術の1つの機械学習アルゴリズム(AI-ML)を用いて実現します。

ここでは、6Gのユースケースの1つの自動運転に着目します。今回は、自動運転車両が道路沿いの基地局と通信を行いながら走行している際に、大型車両であるバスが路肩に停車し、自動運転車両と基地局間の遮蔽になってしまう、というシナリオを考えます。このとき、AI-MLを用いて、遮蔽の発生を予測し、遮蔽の影響がなく、通信品質が最も高くなる基地局選択を行い、常に高品質な通信の提供を実現します。


こちらが6Gシミュレータの画面(図3)とシミュレータによる評価結果(図4)となります。グラフの縦軸が通信品質を表しており、数値が高い方がより多くのデータを送受信できており、品質の高い通信を行えていることを示します。また、図中の帯部分が遮蔽が発生したタイミングを示しています。実線で示す特性がAI-MLを使った際の通信の状況を表しており、破線で示す特性がAI-MLを使わなかったときの通信の状況を表しています。
結果から、AI-MLを用いなかった場合、バスによる遮蔽の影響で通信品質が大きく劣化していることがわかります。一方でAI-MLを用いることで、遮蔽の影響を回避し、常に高品質な通信を提供し続けています。6Gシミュレータ上を確認すると、AI-MLを用いなかった場合は、バス側の基地局アンテナと通信を行っていますが、AI-MLを用いることで、遮蔽と反対側にある基地局アンテナと通信を行えるようになっています。また、評価結果をよく見ると、遮蔽がないタイミングでも、AI-MLを用いた方が、より高い通信品質を実現できているわかります。つまりAI-MLを用いることで、遮蔽の有無にかかわらず、全体的に通信の品質を高めることができるということになります。
RCS研究会と会場の様子


私は今回、電子情報通信学会のRCS研究会と呼ばれる学会で、この6Gシミュレータの技術展示と口頭発表に行ってきました。RCS研究会とは、無線伝送や無線アクセス技術、システム構築、ネットワーキング技術、無線通信理論など無線通信システムに関する研究発表・報告・議論を行う場として、毎月テーマを変えながら開催されている学会となります。現在は、 5Gの先としてBeyond 5Gや6Gの実現に向けてさまざまな研究報告がされています。今回、私が参加した研究会は移動通信ワークショップがテーマとなっており、移動通信に関連する他研究会との併催で、多くの方が参加されていました。開催形式がハイブリッドで、現地参加に加えてオンラインでも参加可能だったため、現地とオンライン合わせて、1日目は145名、2日目は174名、3日目は155名と3日間通して盛況な研究会となりました。
3月研究会では、一般講演のほかにも技術展示ブースが設けられ、技術や製品、サービスを実際に見ながら技術交流や意見交換が行えるようになっています。今回私も、技術展示ブースで6Gシミュレータを展示し、シミュレータの実際の映像をお見せしながら、いろいろな方と意見交換に行ってきました。展示を見に来ていただいた方からは以下のようなコメントをいただきました。
- 可視化されていることで6Gの世界観をイメージしやすい
- 自分たちの技術をどうやって使うか、ユースケースを考えやすい
- 今後このシミュレータをどのように活用していくのか気になる
- もっと複雑な環境下でのAIの性能を見てみたい
6Gシミュレータの完成度の高さへの驚きの声や、もっとこういうシーンを見てみたい、こういう評価をしてみては?という提案をいただいたりと、いろいろな意見を聞くことができ、私自身勉強になる点が非常に多かったです。
また、今回は講演時間を15分いただき、6Gシミュレータを用いたAI技術を導入した6Gシステムの性能評価結果について報告しました(参考2)。
おわりに
1年目新入社員である私ですが、次世代の移動通信システム実現に向け、ドコモの研究者として、いろいろな方たちと議論することができ非常にやりがいを感じています。また、技術の最先端を常に知ることができるのは楽しいです。
今までも学会に参加してきましたが、その度にさまざまな方が通信の発展に向けて多くの努力をしているのだと感じます。いつでも、どこにいても、誰かに言葉を届けられる“あたりまえ”を作っているのは、多くの方の努力の証だと思います。私たちの取組みが、いつか誰かの幸せを作ることを夢見て、今後も研究開発活動を頑張っていきたいと思います。
参考
- ドコモ開発者ブログ,“6Gシミュレータを開発し、6G無線技術のシステム性能を評価してみた”,https://nttdocomo-developers.jp/entry/2023/10/12/090000
- 林 優太,立石 貴一,須山 聡,張 裕淵,蒋 恵玲,“[技術展示]6Gシステムレベルシミュレータによる機械学習を用いた将来予測制御の評価”,信学技報,RCS2024-264,Mar.2025.